「無罪と確定するまでは有罪」か
ネパールの社説が警察とメディアの「推定有罪」の姿勢に異論

  • 2021/4/14

 犯罪報道でしばしば問題になるのが、容疑者情報の扱いだ。以前は、日本でも容疑者は呼称なしで呼び捨てされ、逮捕された時点で「有罪」であるかのような扱いを受けた。3月23日付けのネパールの英字紙カトマンドゥ・ポストは、この問題を社説で採り上げた。

(c) Sora Shimazaki / Pexels

推定無罪の原則

 社説はまず、人権を守るために「推定無罪」の原則があること、ネパールもまたその原則を擁護する法治国家であることを説き、次のように述べる。
 「世界人権宣言の11条には、推定無罪が保証される権利が記載されている。刑事罰で訴追されたどのような人にも、有罪と確定するまでは無罪とされる権利があり、法廷においてその人自身の弁護をされる権利も保証されている」
 この「有罪と確定するまでは無罪」という考え方について、社説は「ネパールの憲法上も保証された権利であり、一方的な逮捕や拘束から逃れ、何をおいても守られなければならない言論の自由やプライバシーの自由を確保するために必要な、刑事訴訟上の法的仕組みの基本である」と、訴える。
 その上で、残念ながらネパール国内ではこの原則が理解されておらず、法を執行する立場にあるネパール警察が、推定無罪とは逆の「推定有罪」を進めている、と社説は批判する。
 「法執行にあたるネパール警察は基本的な人権擁護を認識しなければならないにも関わらず、繰り返し過ちを犯している。これは危険な兆候だ。ネパール警察は、法執行における役割と人権擁護について、より敏感になるよう警察官たちを指導しなければならない。そうでなければ、“無罪と確定するまでは有罪”という、望ましくない前例を続けることになる」

報道にも責任

 その上で社説は、容疑者を公にすることは法律に違反する行為だと主張し、こう述べる。
 「弁護士によれば、有罪が確定する前に容疑者の写真や情報を公にすることは、国内および国際法に違反する行為だという。ネパールの国内法では、緊急時には裁判所が発行した逮捕状なしに警察が容疑者を逮捕できると定められている。しかし、2018年の個人情報保護法では、取り調べのために拘束された人の情報は、どのような形であれ、公にされるべきではない、と定められている。ネパールは国連人権委員会にも加盟しており、この原則に従うべきだ」
 さらに、「刑事訴訟の段階で容疑者の情報を公表することは、人権の観点から見直されるべきだ。公平な裁判と推定無罪の原則があるにもかかわらず、ネパール警察は、たとえ軽微な犯罪の容疑者でも見せしめのように公開したり、逮捕された人々の情報や写真を詳細に報道したりしているが、捜査が終わり、法廷の判断が下されるまでこうした情報は公開されるべきではない」
 さらに社説は、警察の発表情報をそのまま報道してきたメディアにも責任がある、と指摘する。
 「容疑者を犯罪者であるかのように情報公開してきた警察の発表をうのみにしてメディアが報道することで、問題が一層悪化した。容疑者の早すぎる公開は誤っている。警察もメディアも、容疑者が有罪と確定するまでは無罪であることを理解しなければならない」
 社説がこの問題を採り上げた背景にどのような事件があったのかは、明らかではない。また、容疑者の情報を公表することで公権力の乱用を防止するという側面もあり、社説の主張に全面的に同意することは難しい。
 とはいえ、社説が指摘する通り、法執行者も報道関係者も「推定無罪」を十分に理解しないままに個人情報が公開され、「推定有罪」が生み出されているのであれば、その主張はある程度理解できる。この社説が、推定有罪に陥りがちな犯罪報道の在り方について一石を投じることを目的に掲載されたと考えれば、ネパールに限らず、わがこととして受け止めたい。

 

(原文:https://kathmandupost.com/editorial/2021/03/22/guilty-until-proven-innocent)

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