タイ「メディア条項」の政治利用
削除を認めるタイ英字紙の見解

  • 2019/12/1

どの社会でも、政治とメディアの関係は複雑で深いものだが、タイでは、憲法のメディア条項をめぐり、ライバル同士が足を引っ張り合う泥仕合が展開されているようだ。タイの英字紙バンコクポストは11月27日付の社説でこの問題を採り上げ、「悪法は廃止せよ」と指摘している。

革新政党の党首も

 今年3月に実施されたタイ下院選挙では、革新系の「新未来党(アナコットマイ)」が、大躍進を遂げ、注目された。ところが11月20日、タイ憲法裁判所は、同党のタナトーン党首が、議員立候補時に、憲法で禁じられているメディア会社の株を所有していたとして、議員資格をはく奪する決定を下した(同議員の資格は、別の違反疑惑で一時停止されていた)。

連立政権について語る新未来党のタナトーン党首(右:当時)と、タイ貢献党のスダラット元保健相=2019年3月27日撮影 (c) ロイター/アフロ

 若者を中心に支持を集め、反軍政派の統一候補にも挙げられたほどの影響力を持つタナトーン氏の議員資格はく奪の背景には、同氏を警戒する軍の意向もちらつく、と報道される。

 2017年4月に発効したタイの憲法では、選挙に立候補する人が、新聞などメディア会社を所有することを禁じている。社説によれば、この条項の目的は、選挙時に特定人物の影響力を排除し、メディアを「公平な競争の場」とすることだ。

 社説は、「これまでのところ、多くの政治家がこの条項に従っている」と述べた上で、「実際には、政治家がメディアに影響力を持つことを阻止する、という本来の目的ではなく、単にテクニカルに問題があったとして従わされている者が多い」「メディア条項が政治的に利用されていることは、もっと問題だ」と、懸念を示している。

SNSの存在を無視

 たとえば、新未来党のサコンナコーン県選出の議員は、複数、所有社を所有しており、うち一社がメディアだったということで、資格をはく奪された。社説は、「事業展開をしていれば、系列にメディア会社が含まれることはあり得ることだ」として、それがはく奪に値するかどうか、根本的な疑問を呈している。憲法裁判所はこうした訴えをいくつも受け取っているのだという。

 社説が指摘する「政治的利用」には、タナトーン党首の資格はく奪も含まれるだろう。そして、その意趣返しのように、新未来党の報道官は最近、「国民国家の力党」の議員の名前を挙げた。「所有していたメディア会社の株式を、ネーション・マルチメディアグループに移行した時期と、議員立候補時との関係を調べるべきだ」と、訴えたのだという。

 社説は、「今後、メディア条項をめぐって政治家同士の告発合戦が増えるのは目に見えている。そもそも条項の定義があいまいで、解釈次第で適用内容が変化することに疑問を持つ人たちもいるからだ」と、指摘する。そして、「この条項は、タイの民主的な歩みを阻害するものだ。条項の政治利用が手に負えない状態になる前に、対策を取るべきだ」と、強く主張する。

 社説は、条項の起草時に考慮されなかったこととして、メディア会社を所有しなくてもメディアに好意的な報道をさせることはできること、また、近年の政治活動に欠かせないソーシャルメディアサービスの存在があること、を挙げる。

 「メディア条項の目的は公平な競争を促すことだが、その目的は達成されていない。誤用を招く内容だ。もし条項を残すのであれば、具体的にどのメディアの所有が禁じられるのか明らかにするといった改定が必要だ。さもなくば、廃止されるべき条項である」

 

(原文:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/1802884/media-law-badly-misused)

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