ネパールの公務員が無実の罪で自死
公務員の不正捜査機関めぐる疑惑を地元紙が追求

  • 2020/9/28

 政治家や官僚が関わる賄賂や不正事件で、「トカゲのしっぽ切り」はよく使われる手段だ。問題の根源は権力者や有力者にあるにも関わらず、捜査の手はなかなかそこまで行きつくことがない。9月14日付のネパールの英字紙カトマンドゥ・ポストは、公務員の不正や腐敗を捜査する政府機関の問題点について社説で採り上げた。

ネパールで昨年、無実の罪を着せられた公務員が自殺したことを受け、権力乱用調査庁への批判が高まっている (c) Prateek Katyal / Pexels

利用された独立機関

 社説によれば、ネパールではこんな事件が起きた。

 1年前、地方の土地租税局の職員であったラムハリ・スベディ氏が、権力乱用調査庁(CIAA)に42日間拘束された後に、自殺した。CIAAは、スベディ氏に対し、便宜を図るよう求める人物から1000ネパールルピー(約900円)を賄賂として受け取ったとの容疑をかけていたという。

 しかし、彼の死後、彼は無実だったことが判明した。社説は、「一人の公務員を破滅に追いやったにも関わらず、CIAAはこの嫌疑について、お金を受け取ったどころか、テレビカメラに映っていた、ということ以外、十分な証拠を示せなかった」「スベディ氏の自殺とその後の無罪判明は、人々をささいな罪で摘発し、より大きな犯罪には目をつぶる、というこれまでのCIAAのやり方を象徴している」と、批判する。この組織が根深い問題を抱えていることを示唆する社説だ。

 また社説は、「無実の公務員を投獄したCIAAのナビン・ギミレ長官は9月13日に引退をした」と、伝えた上で、長官の在任中の活動について、「どちらかといえば目立たないどころか、問題があった」と指摘。「CIAAはギミレ氏のもとで憲法に基づき腐敗や不正を摘発するという機関の独立性と役割を失い、政府の言いなりになり下がった。ギミレ氏が与党であるネパール共産党と内通し、党内の反乱者を抑え込むためにCIAAを利用していた、という噂さえ流れている」と、説明する。

地に堕ちた評価

 とはいえ、CIAAの評判を貶めたのはギミレ長官だけではないようだ。社説には、CIAAの長官としてふさわしくないとされた人々の事例が挙げられている。

 社説は、「新長官は、貶められたイメージの回復のために多くのことに取り組まなければならない」とした上で、「ギミレ氏を指名した政治家のために働くのではなく、本来の任務を全うすることに力を注がなければならない。直近で言えば、CIAAに民間セクターの不正についても捜査権を与えようという動きがあり、議論になっている」と指摘。大きな負の遺産を受け継いだ新長官に厳しい目を向けている。

 もちろん、国民にも役割がある。社説は「国民は、CIAAが権力を持つ人間の気まぐれではなく、組織として不正や腐敗に立ち向かえるよう、しっかり見張らなければならない」と、指摘している。

 「政治や権力の犠牲となった無実の公務員」。おそらく世界中に、「スベディ氏」が存在するだろう。日本でも、不正に手を貸したという自責の念から命を絶った公務員がいた。今回の事件は、決してネパールが途上国だから起きたわけではない。

 

(原文: https://kathmandupost.com/editorial/2020/09/14/net-the-big-fish)

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