電気自動車の優先輸入の機運高まるスリランカ
地元紙の社説が「2030年までに全面電化を」と訴え

  • 2022/2/10

環 境への配慮などをめぐり、世界の有力自動車メーカーが相次いで電気自動車への移行方針を打ち出している。スリランカの英字紙デイリーニューズは、2022年1月22日付の社説でこの話題を採り上げた。

(c) Rathaphon Nanthapreecha / Pexels

選択的な自動車輸入を

 スリランカのラジャパクサ大統領は、国会での答弁で、輸入禁止となっている自動車の輸入を2023年にも再開し、なかでも電気自動車の輸入に優先的に取り組むと発言した。自動車の輸入禁止は、コロナ禍により同国の通貨であるスリランカ・ルピーの減価圧力が高まっているとして、外貨流出防止の目的で2020年に発令されていた。
 社説は、「これまでも、スリランカはすぐに電気自動車の導入に動くべきだと繰り返し主張してきたが、ようやくその動きが出てきたことを、まずは喜びたい。おりしも環境大臣が電気自動車の優先輸入について提言したところだった。これは歴史的な決断だ」と、政府の取り組みを歓迎した。
 「電気自動車の優先輸入は、燃料代が極端に高いという理由だけではなく、環境保護の観点からも重要な決断だ。スリランカは、経済的に余裕がないにも関わらず、毎年40億ドルもの化石燃料を輸入している。さらに、コロンボの交通渋滞一つを取ってみても、大変な経済的損失だ。環境への負荷も非常に深刻だ」
 その上で社説は、「今やほとんどの国々が電気自動車を全面的に導入にする方向に舵を切っている」と、指摘。多くの国が2035年を目途としていることに触れ、「スリランカの場合、全面電動化の実現を今後15年間も待っていられない。2030年が、より現実的な目標年だ。しかし、待つのではなく、今から始めなければならない」と、主張した。電気自動車の輸入だけでなく、組み立てや製造への取り組みも含まれるという。
 その一方で、社説は、自動車そのものの使用について考え直すことも必要だ、と指摘する。スリランカは年間15億ドルの車両を輸入し、年間50万台の新たな車両登録がある。
「これは、それだけ燃料費がかかっているだけでなく、経済にも負荷がかかっている」と、社説は指摘する。インドルピーの安値が進んでいることも輸入車の高騰につながっているため、無秩序に乗用車を輸入することで経済への負担が懸念される、いうのだ。
 その上で社説は、輸入車をハイブリッド車か電気自動車に限定してはどうかと提言する。その間に、国内の自動車をすべて電気自動車に移行する狙いだ。

急激な変化への対応を

 議論を深めることが必要だが、いずれにせよ、世の中は電気自動車が主流になりつつある、と社説は指摘する。
 「もし、電気自動車はまだ主流ではないと考える読者がいれば、メルセデスからルノーまで、自動車産業界はすべて電気自動車の開発と生産を進めていることを知ってほしい。電気自動車はより安価になり、電池の持ち時間もどんどん長くなっている。主要な自動車メーカーはほぼすべて、2030年以降は電気自動車のみを生産すると言っている。今からわずか9年後のことである」
 その上で社説は、スリランカもこの流れに遅れずついていく必要があり、新車登録できる車は、今の段階からハイブリッドか電気自動車に限定すべきだと主張する。
 「電化が遅れている商用の大型車だけは例外的に2030年まで猶予措置を取るとしても、他の車種は、2030年までに電気自動車の価格も内燃自動車と同程度か、それよりも低く抑えられるようになり、価格は問題ではなくなるだろう。バッテリー問題も、一度の充電で走行距離が1000キロまで延びれば、支障なくなると思われる」
 また、万が一、電気自動車への移行がスムーズに進まないとしたら、それは国全体のエネルギー政策の重点を再生可能エネルギーに切り替えられない場合だろう、と社説は指摘する。スリランカの主な電力源は現在、火力発電だが、「2020年代末までには電力需要の8割を風力と太陽光発電に切り替える必要がある」と試算。「この計画の進捗こそが、電気自動車の導入にも大いに影響する」と、期待を寄せる。
 また社説は「一人一人が太陽光発電による充電ユニットを保有すれば、電気自動車の電源が確保される」とも提案する。この場合、発電装置の輸入規制緩和が必要だ。もちろん、政府も全土に充電スタンドの設置を進めることも必要だし、税制面での優遇措置も必要だ。
 「自動車産業の世界は大きく、早く変化している。無人自動車が登場するのも、まもなくだろう。私たちは、新しいインフラを受け入れるともに、自分たちの姿勢を変化させる準備をしなければならない」
 自動車という、ごく身近なインフラに起きる変化は、私たちの生活や仕事、思考さえも変えることになるだろう。それは、誰もまだ経験したことのない未来だ。国によって多少の差異はあっても、このペースでいけば、先進国も途上国も、ほぼ同時に新しい未来へと飛び込んでいくことは間違いない。想像力と柔軟性が私たち全員に求められている。

 

(原文:http://www.dailynews.lk/2022/01/22/editorial/270772/go-electric-now)

 

 

 

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