ネパール・ペワ湖に迫る消失の危機
無計画な開発で進む環境破壊を地元紙が警告
- 2020/11/10
ネパールの代表的な観光地であるポカラ市のペワ湖が、環境破壊に直面しているという。10月29日付のネパールの英字紙カトマンドゥ・ポストは、この問題を社説で採り上げた。
縮小する湖
社説によると、過去の地図や衛星写真などを活用して1926年から2017年までのペワ湖の形状を調査したところ、土砂の流入で湖が縮小しつつあることが分かった。「今後、110年から347年後のうちに湖の8割が消失する」との予測も出されたという。
また、今年初頭、2005年と2018年の衛星写真を比較分析する作業を行ったところ、モンスーンの時期に地滑りが発生するような無計画な道路建設や行き当たりばったりの都市化が進められた結果、ペワ湖の美しさも損われていることが分かったという。
なかでも目立ったのは、農地から建築用地への転換だという。社説は、「人口が増えるにつれ、湖流域の農地が建築用地に転換されていることが明らかになった。その広さは40ヘクタールに上る」と指摘した上で、次のように述べる。
「さまざまな研究の結果、ペワ湖で今一度、環境保全が必要であることが確認された。この湖で環境保全が叫ばれ、全国的な関心を集めるようになって14年が経つ。2018年には、最高裁が湖を守るために流域65メートル以内の建物をすべて撤去し、私有地を公有地化するよう命令したにもかかわらず、“信頼に足る地図がない”“土地所有者への補償が十分でない”といった愚かしい理由から、ペワ湖の環境は窮地に陥っている」
自然災害が人災に
ペワ湖が直面する課題について、社説は「取り組めない理由は何もない」と、主張する。
「ペワ湖の問題は、開発と破壊、政治とビジネスのしがらみにとらわれてしまった。ペワ湖の環境を守るという最重要かつ喫緊の課題に対して必要な科学的な根拠や専門的知識、解決策は十分にある。自然をありのままに守ろうとする努力を惜しみ、自分たちの繁栄のために搾取しようという姿勢を続けていれば、私たちは後戻りできなくなる。政府も、国民も、まだ間に合う今のうちにこそ行動を起こさなければならない。自然資源と開発や発展を対立軸としてとらえれば、それはたちまち私たち自身にふりかかる危険となるのだから」
ネパールに限らず、環境破壊によって自然災害の被害が増大する事態は世界各地で起きている。たとえば、インドシナ半島のメコンデルタ地域の洪水も、その好例だ。歴史を振り返ると、この地域の人々は定期的に洪水に見舞われながらも、それと共存し生きてきた。しかし近年、拙速かつ無計画な埋め立て開発が進められていることで、地形が変わり、洪水被害が年々悪化していることが指摘されている。
社説も、まさに同じことを訴える。
「自然災害は長年繰り返されてきたが、人為的な行動が加わることでその被害が急速に悪化し、人の命を奪い、数千人もの避難民を生み、莫大な金額がつぎ込まれて建設されたインフラを破壊するようになった。ヒマラヤ山脈周辺の生態系を今すぐに回復させるべきだという科学者たちの声は、年々高まっている」
ネパールは、美しい自然とともに生きている国であり、自然こそが彼らの最大の財産である。数年先しか見ることができない愚かな人間たちのためにその自然が奪われるとしたら、それはネパールだけの問題ではなく、地球上に住む私たちすべてが目を向けるべき課題である。ペワ湖の行方に注目したい。
(原文: https://kathmandupost.com/editorial/2020/10/28/virus-goes-to-the-villages)