インドの社説が言語に潜む偏見に警鐘
平等な社会の実現に向け言葉の「再定義」を訴え

  • 2021/10/9

女性を呼称する際、既婚なら「ミセス」、未婚なら「ミス」しかなかった時代から、婚姻関係の区別がない「ミズ」が広く使われるようになったのは1970年代だという。インドの英字紙タイムズオブインディアは、9月24日付けの社説で、ジェンダーと言葉について採り上げた。

(c) NEOSiAM 2021/Pexels

クリケット用語も変更に

 社説によると、イギリスの名門クリケットクラブ「メリルボーンクリケットクラブ」はこのほど、ジェンダーニュートラル(中立的)な用語を使用するとして、batsmanという言葉を公式にbatterに変更したという。「クリケットの女性選手の中には、冗談で自分をbatsmanと呼ばせる人たちもいるが、この言葉は、クリケット場に女性が存在するのは異様なことだ、という意味合いを含んでしまう」。伝統的なスポーツであるクリケットにもようやく、ジェンダーの平等という思想が染み入り始めたということだろうか。
 「言葉を変えることはとても簡単だ。さまざまな用語がジェンダー的に平等な表現になったとき、クリケットは、だれもが平等にプレーできるスポーツとして認識さえる。例えば、fielderやbowlerはすでにジェンダー的に中立な言葉だが、man of the match は、player of the matchになる」
 ところが、こうした動きに反対する人たちもいると社説は伝える。
 「なぜ、慣れ親しんだ言葉を変えなくてはならないのか。だれかを傷つけるような目的で使用していないのに?」
 その問いかけに、社説はこう答える。
 「言語は思考を形成するからだ。長い間、男性を指す名詞を使うことが、一般的だった。例えば、chairmanという言葉は、権威を持つのは当然男性であるという発想を思わせる。<女性医師><男性看護師>といった言い方は、職業にジェンダーの偏見が染みついていることを示す。これらの表現は、医師は男性、看護師は女性で当然だ、という偏見を含んでいるのだ」

意識の変革を

 その一方で、社説は、「すでに中立的な言葉がいくつもある」と指摘。英語で同僚を意味するcolleagueや、客を意味するguestなど。ヒンディー語を含む多くの言語が、theyという言葉を性別では区分けしていない、と挙げる。こうした状況を踏まえ、さらにジェンダーによる偏見をなくすための努力が必要だ、と社説は言う。
 「もし私たちが、もっと平等な社会を将来目指すのであれば、大切なことは染みついた偏見を忘れ去ることだ。世界を変えたいのであれば、言葉の<再定義>から始めよう」
 言葉には文化や歴史がある。社説が指摘する通り、形を変えることは容易でも、その言葉に染み付いた偏見を取り除けているかどうかは、別問題だ。1970年代から始まった「Ms.」の使用が、今もまだ必ずしも当たり前にはなっていないことを考えれば、道のりはまだ長い。

 

(原文https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/prisoner-of-gender-words-play-a-critical-role-in-reinforcing-biases/)

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