ネパールの多様な言語を守れ
国際母語デーに寄せて地元紙が消失の危機を警告

  • 2021/3/16

 2月21日の国際母語デーに寄せて、ネパールの英字紙カトマンドゥポスト紙は22日付の社説で「言語の多様性」についてとり上げた。

ネパールは129の言語をもつ多言語国家だ (c)Noelle TB / Pexels

 アイデンティティーとしての言語

 国際母語デーは、1952年2月21日に、当時はまだパキスタンだったバングラデシュの首都ダッカで、ベンガル語を公用語とするよう求める抗議運動が発生して治安部隊と衝突し、死者が出た事件にちなんだ日である。
 バングラデシュに限らず、歴史の中で「言葉」は常に重要な役割を果たしてきた。社説は、「多様な文化を尊重する社会の中で、単一性という考え方は計り知れないダメージを与える。すべての人種、宗教、言語、文化は多様性の中で尊重されなくてはならない」と、主張する。
 国連によれば、世界で話されている6000もの言語のうち、少なくとも43%が消滅の危機にある。社説は、「国際母語の日は、地域社会が自分たちの母語を守り、政府が積極的にそのための政策に取り組む必要性を再認識するためにある」と、指摘する。
 「言語は目に見えない先祖からの遺産である。言語によって我々は祖先たちと世代を超えてつながる。もし言葉がなければ、私たちは今日、ここに存在できないし、どのような成果も願いもあり得なかっただろう。私たちは言葉を、会話するために使い、意味を理解し、言葉を通して世界とつながる。言葉は私たちの命に欠かせない要素である。言葉を奪われたら、世界は沈黙するだけでなく、お互いに理解し合うこともできなくなるだろう。だから、言葉の死は、それを使う人々の社会にとって計り知れない損失であると同時に、私たち人類にとっての損失でもあるのだ」
 社説は、言葉が会話の道具であるだけでなく、自分たちの生命を構成する要素であり、尊厳であると指摘する。そして、「言うまでもなく、言葉は私たちのアイデンティティーであり、母語は私たちとその文化を形づくるものである。言葉により、私たちは唯一の存在としてあることができる」と、説く。

 129もの多言語国家

 社説がここまで熱意をこめて言語の多様性について語るのは、ネパールそのものが多言語国家であるからだ。
 社説によると、2011年に実施された国勢調査の結果、ネパールでは129もの言語が使われていることが明らかになった。そのうち少なくとも24言語は消滅の危機にあるのだという。
 「政府はそのことをよく理解しなくてはならない。これらの言語や方言を話す人がいなくなってしまったら、それを取り返すことはできない。単一の言語を普及しようとして、私たちの言語的遺産を失ってしまった過去の失敗から学ばなければならない」
 それでも、明るい動きもある。社説によれば、国内では先住民族の若者たちにそれぞれの母語を伝えようという動きが広がり始めた、という。
 「それぞれの母語の教育を受ける権利は、ネパールの憲法で保障されていることだ。政府はこの基本的な権利が行使されるよう、柔軟に政策を実行しなくてはならない。消えゆく先住民族の言葉を無視してはならない」
世界には、多民族、多言語の国が多くある。むしろその方が多いかもしれない。こうした国々から学ぶべきことは多い。

 

(原文: https://kathmandupost.com/editorial/2021/02/22/what-s-in-a-language)

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