米国のWHO脱退で失速するコロナとの闘い
米中の相互不信が招いた事態をシンガポールの英字紙が批判

  • 2020/7/15

 トランプ米大統領は、来年7月6日付で米国が世界保健機関(WHO)から脱退することを国連に正式通知した。シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは7月11日付の社説でこの問題を取り上げた。

7月3日、メリーランド州のアンドルーズ空軍基地で専用機エアフォース・ワンに乗り込むドナルド・トランプ米大統領。来年7月にWHOから脱退することを国連に正式通達したことで、新型コロナウイルス対策への影響が懸念されている (c) The New York Times/Redux/アフロ

後手に回ったパンデミック宣言

 米国のWHO脱退について、社説はこう解説する。「米国の脱退は、世界で累計1,200万人以上が感染し、今なお感染者が増え続けている新型コロナウイルスとの闘いに甚大な衝撃を与えるだろう。WHOの年間予算の約16%にあたる9億米ドルもの米国の拠出金がなくなるというのはもちろんだが、それよりも、経済や科学研究の面で世界最大の国が、世界で唯一、公衆衛生に取り組む国際組織から抜けるということ自体の影響の方が大きい」。

 その上で社説は「中国と米国という世界の二大大国の相互不信がこの事態を招いた」と指摘し、「厳しくて長きにわたるウイルスとの闘いは弱体化し失速する」と、批判する。

 トランプ大統領は、かねてよりWHOの対応が中国寄りだと公の場で批判してきた。中国が感染拡大に関する事実を隠蔽してWHOへの報告義務を怠った上、感染拡大の状況について誤った情報を流すよう圧力をかけた、というのが大統領の主張だ。

 社説も「新型コロナウイルスがパンデミック状態にあることをWHOが宣言したのは遅きに失した」と指摘する。宣言が出されたのは、中国・武漢で最初に感染者が確認されてからかなり経ってからのことだった上、中国で実施調査を1月14日に公表した際には、「人から人に感染している明らかな証拠は見つかっていない」と説明した。他方、1月23日に中国が武漢を封鎖し、武漢からの退出を禁じた際には、WHOはこの決定を支持した。これらを踏まえ、社説は「WHOの説明が事態の理解を複雑にした」と非難している。

急がれる組織改革

 その上で社説は、WHO自身の改革が必要なことは明白だと主張し、次のように述べる。「WHOは、事態により迅速かつ公平に対応しなければならないし、透明性を高め、説明責任を負うべきだ。病気には国境は関係ない。一カ国で闘うよりも、国同士が連携して立ち向かう方が有効な対策を打てるという点こそが、WHOが存在する意味なのだから」

 さらに、「医療設備や治療薬、ワクチンを世界中に届けられるかどうかの重大な局面にある中、米国の脱退は深刻な痛手になる」と指摘し、米国が脱退せず残るという決断をすれば、WHOの信頼は回復し、ウイルスとの国際的な闘いにも利益がもたらされる、との見方を示す。「この週末、WHOの調査団が中国を訪れ、新型コロナウイルスの発生源や、感染が拡大した経緯について調査することになっている。これが、事実を知るための最初の一歩であり、WHOに対する信頼を築くための一歩となるだろう」

 未曽有の危機的状況にあって足並みがそろわない国際社会。今後、さらなる犠牲者をどれだけ出さなければならないのだろうか。

 

(原文:https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/abandoning-who-hurts-virus-fight)

 

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