台湾情勢めぐるそれぞれの思惑
アジアの社説が報じる「ペロシショック」を読む
- 2022/8/17
8月2日夜、米国のペロシ下院議長が台湾を訪問した。この動きに中国は猛反発し、周辺で大規模な軍事演習が繰り広げられた。ペロシ議長の台湾訪問は「ペロシショック」として各国で報じられたが、台湾海峡の情勢を含む「米中対立」下での安全保障体制については、新秩序とも言える大きな変化がすでに始まっている。
日本が提唱した「クワッド」を評価するシンガポール
シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは8月2日付の社説で、「日本はアジアにおいて正当な役割を果たさなくてはならない」と、主張した。
社説は、今年のインドネシア国軍と米軍による合同訓練「ガルーダ・シールド」に、日本の陸上自衛隊が初めて参加したことを受けて、「米国と、米国の同盟国である日本、そして東南アジア最大の国であるインドネシアが参加するこの軍事合同訓練の意味は、東南アジアが、インド太平洋地域で存在感を増す中国の動きをけん制する取り組みに近づいているということである」と、書いた。
社説は、日本が第二次世界大戦の際に東南アジア諸国において「罪を犯したこと」から、この地域には日本が軍事力を持つことに対する懸念があったという。しかし、戦後の新たなアジア各国による協力体制の中で、その懸念は緩和されてきたと指摘する。
社説は、「日本は、インド太平洋地域の安全と平和と安定を、防御的かつ抑止的な方法で維持するための重要な役割を果たす立場にいる」と、主張する。さらに、日本が提唱した概念「自由で開かれたインド太平洋地域」を基本とした、米、豪、インド、日本の4カ国による「クアッド」と呼ばれる枠組みについて、「地域の秩序を維持するために意味のある枠組み」だと評価する。
社説が日本に期待するのは、そうした世界のスーパーパワーたちと東南アジア地域との「懸け橋」になることだ。インドネシアとの共同訓練に日本が加わったことによってアジアのパワーバランスが構築されつつある今、そのプロセスに東南アジアが「遅れを取らない」と意思が示された、と見て、社説は歓迎している。
インドは半導体と環境保護分野での連携に期待
クアッドの一角を占めるインド。英字メディア、タイムズオブインディアは8月3日付の社説で、「ペロシ米下院議長の台湾訪問は、中国・習体制への直接的な挑戦だ」と述べた。そのうえで、同紙は「インドは、台湾との関係を深めるべきだ」と提案する。
同紙は、現在の台湾が、世界でも有数の半導体製造国となっていることが「最大の防衛だ」と指摘する。台湾が中国により攻撃された場合、世界の経済に与える影響は計り知れないものがあり、中国は国際社会から激しい非難を浴びるだろう、という。
インドは国境地帯で中国と長く対立しており、前述のクアッドにおいても、拡大する中国の影響力を阻止したいとの立場に立つ。社説によれば、年間の貿易額は80億ドルほどだが、年々増加しており、特に半導体分野と環境保護テクノロジー分野でさまざまなコラボレ―ションが期待できる、としている。
米国流の民主主義を警戒するマレーシア
中国包囲網ともいえる新たな世界秩序ができつつあるようにも見えるが、米国側の国々が掲げる共通の価値観である「民主主義」に、疑問を呈する社説もある。マレーシアの英字メディア、ニューストレイツタイムズは8月9日、「ペロシ氏の危険性」という社説を掲載した。
ペロシ氏が台湾訪問の目的を聞かれて、「民主主義の促進」と答えたことについて、同紙は「まるで米国が民主主義の国際基準を決めているかのようだ」と批判する。「はたして米国は、その主張通り、民主主義の下で自由な国なのだろうか」と、同紙は言う。あるいは、「米国は本当に他国を自由にしているだろうか」とも問う。「アフガニスタンやイラクはどうか」と。
「民主主義か否か、自由な国か否か、という問いは、結局、米国と同じか否か、という問いかけに過ぎない」と、同紙は主張する。それぞれの国に、それぞれの自由と民主主義、それぞれの価値観がある。「我々は、米国に独自の価値観があることを認める。ならば、米国も我々に独自の価値観があることを認めるべきだ。民主主義の促進は、国際社会が順守すべき国際法の一部などではない」
台湾海峡の緊張が高まり、世界のブロック化がまた始まろうとしている。「西」と「東」を分けるものが、米国が提唱するような「民主主義」であり得るのかどうか。急がずに熟慮すべき重大な課題だ。
(原文)
シンガポール:
インド:
マレーシア:
https://www.nst.com.my/opinion/leaders/2022/08/820669/nst-leader-pelosi-peril