国境なき大気汚染がアジアを覆う
静かな緊急事態に、国を挙げて対策を
- 2023/4/29
国境を越えて国際問題となっている大気汚染。その背景には、急速で無計画な都市化や、持続可能な発展を意識しない旧式の農業などがある。
越境する煙害に国際合意で立ち向かえ
タイの英字紙バンコクポストによれば、タイ北部のチェンライやメーソットで現在、煙害の被害が深刻化しているという。3月29日付の社説には、「シンガポールの対処法に学べ」と題された記事が掲載された。
同紙は、タイ北部の煙害の原因として、隣国ミャンマーのシャン州などで行われている焼畑や野焼きによる煙が国境を越えてタイの空を覆っている可能性を指摘する政府の見解を紹介した。こうした焼畑農業はタイでも広く行われており、煙害は国内でも社会問題になっている。社説は、「国内の焼畑さえ規制できないタイ政府が、外国にやめさせるように働きかけられるだろうか」と嘆く。
実は、この煙害はタイやミャンマー特有の問題ではなく、東南アジア各地で共通の課題だ。社説は、2003年11月に東南アジア諸国連合(ASEAN)が締結した「越境煙害についてのASEAN合意」にも言及している。この合意は、1990年代末にインドネシアで油ヤシ農園を作るために大規模な野焼きが行われ、その煙が国境を越えてシンガポールやマレーシアなどの空を覆いつくして国際問題化したのを機に生まれたものだ。煙害は人々の健康に害を与えるほか、都市部や観光地では経済活動をも阻害する。社説は「こうした国際的な合意があっても、煙害対策は、国の主権を超えてまで実施できるものではない。だが、それにしても、紙の上の約束だけではだめだ」として、タイ政府に、合意を活用する方法を検討することを求めた。
また社説は、インドネシア、マレーシア、シンガポールなどの近隣諸国が合意を機に越境煙害の対策が進んだことにも言及。これらの国は、煙害の原因となった油ヤシ業界に厳しい目を向け、ヤシ油の製造工程で環境に配慮するシステムをつくるよう求めると同時に、適切な工程で生産された製品を選ぶように消費者への啓発も行い、業界に対して大きな圧力をかけることで一定の成果をあげているという。社説は「近隣諸国の事例から学ぶことが、正しい方向へと向かう一歩になるかもしれない」と説いている。
大気汚染で存亡の危機に立つバングラデシュ
バングラデシュの英字紙、デイリースター紙は3月30日付の紙面で、同国の大気汚染に関する社説を掲載した。社説は、世界銀行がこのほど発表した報告書で「バングラデシュにおける早すぎる死亡の約20%が大気汚染に関連している」と警鐘を鳴らしていることに注目。同様の研究はほかでも発表されていると紹介した。
世界銀行の報告によると、バングラデシュでは毎年、大気汚染により8万8000人が亡くなっており、特に首都ダッカの平均寿命は、全国平均より7~8年短いという。また、子どもの呼吸器などへの健康被害や、発育・認知機能の発達への悪影響も報告されているという。社説は、「こうした残念な報告が公表されても適切な対応がとられていない」と政府を批判する。
「こうした状況は医療費を増大させるだけでなく、国の生産力を低下させている。ダッカでは、早産や低体重児出産の原因にもなっている。大気汚染はダッカの存亡に関わる脅威なのだ」
さらに社説は、大気汚染を引き起こす要因として、自動車の排気ガス、工場やレンガ窯の煙、計画性のない開発プロジェクトによる粉塵などを挙げ、「ほとんど適切にチェックされていない」と指摘。「大気汚染はもはや無視できないレベルに達している。政府は強い政治的意思をもって、タイムリーで持続的な政策を打ち出さねばならない」と、強く主張している。
(原文)
タイ:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2538491/singapores-haze-remedy
バングラデシュ:https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/air-pollution-crippling-our-nation-3284316