ウクライナ侵攻を南アジアはどう報じたか
各国におけるロシアの存在感が浮き彫りに

  • 2022/2/28

 ロシアのウクライナ侵攻について、アジア各紙も敏感に反応し、社説を掲載している。論調からは、それぞれの国にとってのロシアの存在感が浮かび上がる。南アジア3国の社説を紹介する。

ウクライナのハリコフ郊外で、非稼働状態のロシア軍多連装ロケット砲のそばを歩くウクライナ軍兵士(2022年2月25日撮影)。ロシア軍は同日、銃声と爆発音を響かせながらウクライナの首都に迫った (c) AP/アフロ

侵攻を厳しく批判しながらも中立性を訴えるパキスタン
 パキスタンの英字紙「ドーン」は2月27日付の社説で、「ロシアのウクライナ侵攻は正当化できない。プーチン大統領は、なぜ全面攻撃に踏み切ったのか、その理由をいくつも挙げているが、いずれも検討に値しないものだ」と、厳しく批判した。
 (https://www.dawn.com/news/1677329/position-on-ukraine)。
 パキスタンのカーン首相は、2月23日と24日にモスクワを公式訪問した。訪問は以前から計画されていたもので、長期にわたり遅れているロシア企業との合同事業・ガスパイプラインの建設を促すことが主な目的だとされている。社説によれば、ロシアのウクライナ侵攻を受け、パキスタン国内では当然、訪問を延期するべきだという声が上がったものの、パキスタン政府は訪問を「十分に熟慮したうえで」決行したという。
 政府のこの発表に対し、社説は「パキスタンにとってロシアとの関係は重要であり、首脳会談が政治上の象徴であるだけでなく、ガスパイプラインの大規模プロジェクトを抱える両国にとって、エネルギー問題の上からも重要だという事情は、ある程度理解できる」とした上で、「しかし、パキスタンにとって今、最も重要なのは、中立性を保つことだ」と、主張する。
 「世界のグレートパワーの駆け引きから距離を置き、中立であることがパキスタンの利益になる。国際社会から批判を受けているロシアのウクライナ侵攻に対し、パキスタンは反対する明確な姿勢を打ち出し、ロシアの撤退を訴えなければならない。独立した国に対する攻撃を認めないという意思をはっきり示さなければならないのだ」
その上で、社説は、「ロシアとの関係を一定程度保ちながらも、是々非々で姿勢を示すことは可能だ」と指摘。その例として米国との関係を挙げ、「イスラエル問題について米国を批判しながらも、良好な関係を持ち続けている」と述べた。その上で、「パキスタン外交が、今、試されている」と述べている。

スリランカは原油価格高騰の影響を懸念
 スリランカの英字紙「デイリーニューズ」は、ウクライナ侵攻はロシアにとって大変な負担になるだろうとの見方を示した。
 (http://www.dailynews.lk/2022/02/26/editorial/273516/ukranian-crisis-and-its-impact)。
 その理由として、同紙は2月26日付の社説で、「プーチン政権は、西欧諸国からの経済制裁を受けながら4000万人の人口を支えなければならない。一方、ウクライナにはすでに強硬なレジスタンス勢力がある上、西側諸国から武器の供給も受けるだろう」と述べる。その上で、「今後、ソビエト連邦がアフガニスタンに侵攻した時と同じことが起きるだろう」と推測し、ロシア国内で侵攻に反対する声が上がっているとも指摘している。
 さらに社説は、「西側諸国の経済制裁がどれだけの実効力を持つかがカギ」だと述べ、ロシアはこれまでもさまざまな経済制裁を受けてきたが、それらは「なんの影響力もなかったように思われる」と指摘する。「個人資産を凍結されたぐらいで、ロシアはびくともしないだろう」と見ているのだ。
 一方で、ウクライナ危機によって、スリランカは、原油価格の値上がりや、小麦など輸入食料の不足と値上がりなどの影響を受けるだろうと予測し、次のように述べている。
「スリランカのことわざに、『大きな魚が衝突すれば、打ち砕かれるのは小さなハエだ』ということわざがある。大国同士が衝突すれば、つねに、我々のような小さな国が悲惨な影響を受けるのだ」
 
ロシア製兵器への依存に警鐘を鳴らすインド
 インドの英字メディア「タイムスオブインディア」は、ウクライナ危機がインド国内におよぼす影響の大きさを懸念している
 (https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/fuelling-uncertainty-immediate-economic-fallout-of-ukraine-conflict-sanctions-may-not-be-severe-but-its-challenging/)。
 同紙は、2月27日付の社説で、「ロシアのウクライナ侵攻が続く中、はやくもインド経済にも影響が表れている」と指摘した。「直接的な打撃を受けているのは、原油価格の高騰だ。また、調理用油の値上げによってインフレも起きている。ウクライナとロシアは、ともにひまわり油の輸出で圧倒的なシェアを占めている国だからだ」
 さらに、「個人消費が低迷し、世界的なサプライチェーンが混乱して製造業の主要中間財の価格が高騰する中で、今回の戦争が起きた。非常事態を受け、インド政府はまず、燃料税を早急に切り下げなければならない」と主張する。またその一方で、「欧米はロシアに対し、国際的な決済ネットワークであるSWIFTのシステムから排除するなどの経済制裁を行うことを決めたが、これによってインドが深刻な影響を受けることはないだろう」との見方を示す。
 その上で社説は、ロシアがインドにとって最も重要な武器供与国であることも、今後、インドにとってリスクになると指摘する。
 「中期的に見れば、インドがロシア製の武器に依存していることは、地政学的に見て大きなリスクとなるだろう。2010年から2020年までにインドがロシアから輸入した武器の総額は226兆ドル、武器輸入総額の63%に上る。まずは、この依存率を下げることが最優先だ」と、訴えている。
 

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