パキスタンのゾウが新天地カンボジアへ
独りぼっちの「カーバン」、救出大作戦
- 2020/12/17
パキスタンの首都イスラマバードの動物園で「独りぼっちのゾウ」として知られていたアジアゾウのカーバンが11月29日、新天地カンボジアに移された。動物愛護家らが劣悪な環境から救い出そうと運動を続けた成果だ。12月1日付のパキスタンの英字紙ドーンは社説でカーバンについて書いている。
40万人以上の署名
AFP通信などによると、現在36歳のカーバンは1985年、1歳の時にスリランカからパキスタンに移された。その後、イスラマバードの動物園にいた時のカーバンの様子について、社説は「他の動物たちと同様、非常に嘆かわしい扱いを受けていた」と指摘する。動物園側は「暴れる傾向がみられたために一時的に鎖でつないでいたことがある」としていたが、動物愛護家らは「独りぼっちのゾウ」であるカーバンの鎖を外すよう求めて署名活動を実施。40万人以上がこれに賛同したことを受けて、高等裁判所は今年5月、カーバンに適切な移住先を見つけて自由を与えるよう自然保護当局に指示したという。
社説はカーバンがパキスタンを去る時の様子を次のように伝えた。
「動物愛護家たちの粘り強いキャンペーンが実を結び、世界で一番孤独なゾウはこの日、世界で一番有名なゾウとして、セレブリティのような扱いを受けた。11月30日、カーバンが30年以上を過ごしたイスラマバードの動物園を出てカンボジアに発つ日には、彼の保護に尽力したアメリカ人歌手シェールさんが見送った」
その上で社説は、カーバンが出発する時まで厳重に守られていた理由について、カーバンと同じようにこの動物園で飼育されていた2頭のライオンが、インドのラホールに移送される直前に死亡するという事件が起きたことを挙げる。
「検死の結果、2頭は飼育員がおりで放火したために窒息死していたことが明らかになったため、同じような悲劇を繰り返さないよう、動物愛護団体の専門家らは出発の数カ月前から交代でカーバンの面倒を見ていた。いま、カーバンは新しい棲み処にたどり着いた。これまで長年にわたりカーバンは独りぼっちで過ごしていたが、ようやく仲間と一緒に過ごすことができるようになった」
先が長い「動物の権利擁護」
社説は、「カーバンは、動物愛護団体や有名人が保護運動に取り組んだおかげで、一躍、世界に知られる存在となった。今後は自由を満喫し、より良い日々を過ごすことができるだろう」とした上で、「カーバンと同じような劣悪な環境に置かれ、救いを待っている動物は数えきれないほど多い」と、指摘する。
「すべての動物の状況が、カーバンと同じように注目され、メディアで報道されることはないだろう。しかし、悲惨な状況をなくすためには、長期にわたり粘り強くたたかい続ける必要がある。その道のりは長いが、こうした運動が実を結び、野生動物によるサーカスが禁止されるなど、少しずつ成果も上がっている」
最後に社説は、「動物も人間から搾取されることなく生きる権利がある」とする「動物の権利」に触れ、イギリスの哲学者ジェレミ・ベンサムの言葉を引用する。
「動物に理性があるどうかや、話すことができるかどうか、が問題なのではない。苦痛を感じるということが重要なのだ。苦痛の感覚を持つあらゆる生き物を保護の対象にしないのはなぜだろうか?」
カンボジアに到着したカーバンが、余生を静かに自由に暮らせることを切に願う。
(原文: https://www.dawn.com/news/print/1593370)