フィリピンのフェイスブック偽アカ事件が語るもの
力強く、毅然としたジャーナリズムとは

  • 2020/10/12

 米ソーシャルネットワークサービス(SNS)であるフェイスブックが、フィリピンで政治的な意図で操作されたとみられる大量の偽アカウントを削除したと発表した。9月29日付のフィリピンの英字紙インクワイアラ―は社説でこの事件を採り上げた。

フィリピンで政治的な意図で操作されたとみられる大量の偽アカウントが削除された (c) Simone Fischer /Unsplash

250以上のアカウントを閉鎖

 社説によれば、今回の事件で閉鎖されたフェイスブックの偽アカウントは、250以上に上り、その多くは警察や軍が関与していたと見られる上、偽アカウントをたどっていくと中国の福建省が発端であるとも報じられており、フィリピン国内で衝撃が広がっているという。

 その上で社説は、これらの偽アカウントが、反テロリズム法や西フィリピン海(南シナ海)における領有問題をめぐって中国が強硬な姿勢を貫き、フィリピン最大のテレビネットワークであるABS-CBNの閉鎖問題などをめぐって喧々諤々の議論が交わされていた時期につくられたと見られることを指摘。「資金力のある者たちが意図的にSNSをキャンペーンに利用しようとしているようだ」との見方を示す。

 9月29日にフェイスブックがオンラインで開いた記者会見で、セキュリティ対策室長は偽アカウントの閉鎖について、「組織的かつ本物ではない行動(coordinated inauthentic behavior)」が検知され、米国のソーシャルメディアコミュニティの行動規範にそぐわないと判断した」と、理由を明らかにした。

 社説によれば、フェイスブックがフィリピンの政治に関連する偽アカウントを閉鎖したのは、これが初めてではないという。実際、2019年3月には、ドゥテルテ大統領が出馬した2016年の選挙選でソーシャルメディア戦略担当を務めたニック・ガブナダ氏が管理する200以上のフェイスブックのアカウントが閉鎖されている。

「偽アカウントを閉鎖することは、フェイクニュースをはじめ、政府に批判的な評論家や野党勢力への攻撃するために政府自身が容認する悪質な偽情報やプロパガンダの蔓延を防ぐために重要な措置だ」

情報の受け手にも役割

 その上で社説は、さまざまな情報が氾濫する今日社会においてジャーナリズムが果たすべき役割を次のように表現する。

 「ソーシャルメディアが、往々にして特定の政治意図に基づき利用されるからこそ、ジャーナリズムは力強く、また適切であることが求められる。さまざまな情報が指先ひとつで発信される今日、ジャーナリストは真実を封じ込めようとするあらゆる手段に毅然と立ち向かい、光を当てるたゆみない作業を続けなければならない」

 さらに、新型コロナウイルスという危機によって、ジャーナリズムの役割が見直されたと指摘。「メディアが発信するタイムリーかつ正確で中立な情報のニーズは一層高まっている。情報が人々の命と仕事に直結するものであることが認識された。人々の安全のため以外の理由で行動と自由は制限されてはならない」と訴えた上で、ジャーナリストをはじめ、メディアにかかわるすべての人たちに対し、「今こそ偽情報と混乱を排除し、人々が安全に生きるために政府が何をし、何をしていないかを知り、納税者として税金が適切に透明に使われているのかを確かめ、権力のある人々が何をしているのか注目すべきだ」と訴える。

 一方、情報を発信する側だけなく、受け取る市民の側も役割を果たすべきだと主張し、次のように呼び掛ける。

 「まず、目にした情報をうのみにせず、批判的に見てほしい。そして、自分たちの国が民主主義国家だという自負があるなら、ジャーナリストやメディアとともに、表現の自由と報道の自由のために立ち上がるべきだ」

 フィリピンのみならず、民主国家を標榜するすべての国民に当てはまることだと肝に銘じたい。

 

(原文: https://opinion.inquirer.net/133976/vital-vigilant-journalism)

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