国連総会のミャンマー軍非難決議とタイの社説
「棄権」の背景と、届かない周辺国の思い
- 2021/7/2
クーデターによる混乱が続くミャンマーに対し、国連総会は6月18日、国軍の暴力を非難する決議を賛成多数で採択した。タイはこの決議を棄権したが、6月22日付のタイの英字紙バンコク・ポストは社説でこの問題を採り上げた。
「長い交流の歴史を持つ最も近い隣人」としての難しさ
国連総会で決議された内容は、すべての加盟国に対してミャンマーへの武器の流入防止に協力するよう求める一方、ミャンマー軍に対して暴力を直ちに停止し、メディアへの規制を撤回するとともに、指導者アウン・サン・スー・チー氏らの解放を訴えるものである。また、4月に開かれた東南アジア諸国連合(ASEAN)で合意された事項を直ちに実施するように促し、和解に向けて対話を進めるようにとも求めている。
この決議に、米国やEU諸国を含む119カ国が賛成し、36カ国が棄権し、1カ国(ベラルーシ)が反対した。棄権したのは、中国やロシアのほか、東南アジア諸国では、タイ、ブルネイ、カンボジア、ラオスの4カ国。インドネシアやマレーシア、シンガポール、フィリピン、ベトナムは賛成した。
バンコク・ポストの社説は冒頭で、「タイが国連総会でのミャンマーをめぐる決議を棄権したことは驚くべきことではない」と述べている。
「ミャンマーと2400キロにわたる国境を接し、長い交流の歴史を持つ最も近い隣人として、タイ政府は常に用心深くミャンマーに対応してきた。タイ外務省の報道官は今回の棄権の理由について、“タイは他の多くの国々と違い、ミャンマーとの間に余裕を持てるほどの距離がなく、自国と切り離して考えることができないため” だと表現した」
沈黙外交を見直せ
社説は、「ミャンマーの政情が悪化すれば、その影響を最も直接的に受けるのはタイだということを考えれば、棄権した理由も理解はできる」とした上で、「タイは、そうしたミャンマーに対する<沈黙外交>を見直す時期にあるのではないか」と、指摘する。
「歴史が示す通り、ミャンマー軍は、国際社会の批判や経済制裁に直面しても頑固にその姿勢を変えることはない」と評する社説は、「ミャンマー軍に圧力をかけるのではなく、建設的に話し合いを進める必要がある」という立場をとる。
「ミャンマーを長い冬眠からついに覚めさせ、国際社会に参加させたのは、2007年にサイクロン・ナルギスに見舞われた同国に、ASEAN諸国や国際機関から支援物資が送られ、さまざまな援助が行われた後だった。壊滅的な被害を受けたミャンマーに手を差し伸べたことが、国際社会に同国が復帰する一つのきっかけになった」と、社説は指摘する。
ただ、こうした周辺国の思いは残念ながらミャンマー軍には届いていない。ミャンマー軍上層部は、「ほんのわずかな友人たちとともに歩んでいくことを学ばなくてはならない」と発言したという。この「友人」とは、ロシアや中国のことを指している、との見方を社説は示す。また、4月24日のASEAN首脳会議の数日後、ミン・アウン・フライン国軍総司令官は、「ミャンマー国内が平常に戻ったら、暴力をやめるという約束について考える」と発言したという。ミャンマー軍がもたらす平常。そのために2月1日のクーデター以降、国軍は860人以上の国民の命を奪ったのだ。
社説によれば、タイの軍部は国境でミャンマー軍の兵士に米を供給したことが判明して以来、批判されているという。
「タイ国防省はその役割を見直し、世界に対してミャンマー軍寄りではないことを主張しなければならない。我が国の軍隊は、ミャンマーの市民たちが弾圧から逃れられるように安全な場所を提供すべきだ。ASEAN首脳会議から2カ月あまりが経過したが、ミャンマー特使はいまだ派遣されておらず、和平プロセスを始めることができていない。その間にもミャンマーでは血が流れている。ASEANは今こそ世界に対してミャンマーを救う姿勢を示さなければならない」
ミャンマーと国境を接し、同じように軍部出身者が政権を握っているタイ。現実的に判断することが得意だと言われるタイ国民だが、国民の生命を奪う政権と「折り合い」をつけることは、決してすべきではない。
(原文:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2136203/end-misery-in-myanmar)