タリバンによるカブール制圧と2つの懸念
アフガニスタンを戦火から守り、テロリストの台頭を監視できるか

  • 2021/8/26

 アフガニスタンのガニ政権が8月に崩壊し、反政府勢力のタリバンが全土を掌握した。駐留米軍の撤収が進む中での出来事だった。アフガニスタンと国境を接するパキスタンの英字紙ドーンは、8月19日の社説でこの問題を採り上げた。

アフガニスタンの首都カブール (c) Suliman Sallehi /Pexels

「熱いナイフでバターを切る」

 反政府勢力タリバンがアフガニスタンの首都カブールを掌握したことで、米国がつくったアフガニスタン政府は崩壊した。展開は早く、社説は政権崩壊の様子を「まるで熱いナイフでバターを切るように、タリバンはカブールへと進んだ」と、表現した。
 そしてタリバン勢力は8月17日、初めての記者会見を開いた。この時の模様について、社説は「アフガニスタンが再び戦場になるのではないか、といら立つ世界に対し、タリバンは正当なことを言った。タリバンの報道官は、8月17日に開いた最初の記者会見で、アフガニスタンを他国の攻撃の基地にはさせない、と述べた」と、伝えている。
 社説によれば、この言葉はタリバンが2020年にアメリカのトランプ政権との間で交わした和平合意の一部を引用したものだという。
 「この合意こそが、今回の米軍撤収の始まりとなった。今、世界はタリバンがこの言葉を実行するかどうか注視している」
 20年もの長きにわたってアフガニスタンに駐留した米軍は、結局、タリバンを制圧できないままこの地を去るのだ。
 社説は、タリバン勢力の今後について、「タリバンはアフガニスタンを戦場にしないという約束を誠実に守るのか。そして、彼らは国境を越えたテロリストたちの活動を監視し、把握できるのか。この2点が懸念される」と、指摘する。

複雑な勢力図、関与国に責任

 社説によれば、2001年9月11日に発生した世界同時多発テロの後、タリバンの初代最高指導者であるオマル師は、当時、国際テロ組織アルカイダの指導者だったオサマ・ビン・ラディンと近い関係にあったにもかかわらず、イスラム過激派勢力に国内を去るよう告げたという。タリバンが、ビン・ラディンの支援者や彼の下に集まった戦闘員たちの力によってアフガニスタンを実質的な支配下に置いていたにもかかわらず、だ。
 「しかしオマル師は、ビン・ラディン自身を国内から排除することはしなかった。この判断が、当時のタリバン政権に対し、重大、かつ長期に渡る影響を及ぼすことになった」
 それから20年が過ぎた今、タリバンは当時とどう違うのだろうか。社説は、次のように指摘する。
 「現在のタリバンの指導者たちはより現実的に考えているだろう。彼らは戦いで疲弊した国土を再建するためには、国際的な援助が必要であることを理解している。そのうえ、復興しなければ、国内の反対勢力がカオスと政情不安を引き起こすことも分かっている」
 しかし、その一方で、この長い年月の間、イスラム過激派組織はより広く複雑化した。社説は、その状態を次のように説明する。
 「まるで、ゴルディアスの結び目のように解くことが難しい状態だ。最近の国連安全保障理事会の報告によると、アルカイダはアフガニスタンの少なくとも15州に存在しており、一部ではタリバンの保護下で活動している。他方、パキスタンから放逐されたパキスタン・タリバン運動(TTP)は、アフガニスタンのパキスタン国境付近を聖域として活動している。TTPは、パキスタン国内のスンニ派過激派勢力で、タリバン支持勢力の連合体だ。2020年にはアルカイダの監督の下、いくつかの分派が統合され勢力を強化した」「さらに、イスラム国(IS)勢力もアフガニスタンのいくつかの州に潜伏しており、彼らが中東地域から戦闘員たちを集める可能性も指摘されている」「新疆ウイグル自治区の独立派組織や、ウズベキスタンのイスラム軍事組織も、アフガニスタンを足場としている可能性がある」
 複雑さを極めるアフガニスタン情勢について、社説は「国際社会は、アフガニスタン政府に、武装勢力の問題を解決するために手助けしなくてはならない」と指摘し、次のように訴える。
 「アメリカからパキスタンまで、アフガニスタンにかかわった国々は、過激派の活動に資する何らかの活動をしてきたことは否定できず、責任がある」
 20年前、タリバン政権が陥落した直後のカブールでは、廃墟の中でも戦いから解放される喜びがあった。しかし、その後、これだけ長い時間をかけても、平和は定着しなかったということだ。社説が指摘するように、タリバンを責めるだけでは問題は解決しない。

(原文https://www.dawn.com/news/print/1641484)

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