欧州がイスラム教徒のスカーフ着用禁止を支持
強まる異文化排斥の動きにパキスタンの英字紙が反発
- 2021/7/23
欧州司法裁判所は7月15日、イスラム教徒の女性が髪の毛を隠すために頭を覆うスカーフ(ヒジャブ)の着用について、企業が一定の条件のもとで禁止することができる、との判断を示した。7月21日付のパキスタンの英字紙ドーンは、社説でこの問題を採り上げた。
「中立性を示すため」
ロイター通信によれば、裁判所は「政治的・哲学的・宗教的な信念を職場で目に見える形で表明することを禁止するのは、顧客に対して中立的なイメージを示し、社会的な論争を避けるために正当化される場合があり得る」と判断したという。これについて、ドーン紙は社説で次のように反論する。
「欧州の国々は、政教分離を掲げ、信教の自由も認めてきたとされている。しかし、ここ数年、欧州で起きている出来事を見ると、果たしてこれが現実的にどれほど実行性のあるものだったかは、はなはだ疑問だ。欧州司法裁判所は7月、仕事の中立的なイメージを守るために、スカーフの着用を禁じることが妥当であるとの判断を下した。裁判所は、それぞれの加盟国の司法機関が、それぞれの必要性に応じて対応することを認めているが、今回の判決は欧州全土に誤ったメッセージを伝えるものだろう。トルコ大統領府の報道官はこの決断について、“ レイシズムに正当性を与えようとするものだ “と反発している」
これは、イスラム教徒が国民の97%を占めるパキスタンから見れば、欧州司法裁判所の決定は、イスラム教徒の信仰の自由を侵すものだという指摘だ。
その上で社説は、「欧州は啓蒙思想の要塞だと言われているが、特に20世紀に入ってからは、その評価が適切だとは言いがたい」と指摘。その例として、当時、アルジェリアを支配下に置いていたフランスや、コンゴ(現在のコンゴ民主共和国)でベルギーが行った数々のホロコーストを挙げて、「欧州諸国が必ずしも人権擁護の取り組みにおいて、褒めたたえられるような行動を取って来たわけではない」「欧州連合は、イスラム教徒の宗教の自由を制限すべきではない」と、強く非難した。
安全保障上の脅威?
さらに社説は、「欧州で異文化排斥の対象になっているのはイスラム教徒だけではない」とも指摘する。
例えば、ユダヤ教徒の信徒がかぶる「キッパ」と呼ばれる帽子が、以前、攻撃の対象になったことがあった。また、ベルギーでは最近、動物を気絶処理せずに屠殺することが禁じられたが、この処理方法では、イスラム教やユダヤ教の戒律にのっとって調理・加工するハラルやコーシャを行うことができない。それでも、EUはこの判断を支持していると社説は伝えている。
「欧州の多くの国々で、近年、右派ポピュリストたちに迎合する動きが見られる。彼らは、移民や有色人種の宗教や文化に基づく行動を攻撃の対象にしている。顔を覆うベール(ニカブ)によって本人確認をしにくくなるという理屈は理解できなくもないが、ヒジャブを女性労働者がかぶったり、ハラルやコーシャの食べ物を食べたりすることが、どのように安全保障上の脅威になると言うのだろうか」
新型コロナウイルスの感染拡大によって、これまで以上に寛容さと柔軟性が失われつつある世界で、人間の心はさらに内側に向きつつあるのだろうか。「共存」と「協力」こそが、未曽有の危機を乗り切る唯一の道であると、私たちはすでに学んだのではなかったか。パキスタンの社説が、欧州の人々の耳に届くことはあるのだろうか。
(原文https://www.dawn.com/news/1636328/eu-headscarf-ban)