新型コロナ、「ニューノーマル」への道
各国の英字紙が次の一手を議論

  • 2022/3/16

 コロナ禍は、オミクロン株による急激な感染者増が世界各地でピークを過ぎ、落ち着きを取り戻しつつあるように見える。しかし、今もかつての感染の波よりは感染者がずっと多く、新たな変異株が出現する可能性もあり、予断を許さない。アジア各紙の社説は、それぞれの国の「次の一手」を論じている。

(c) Nothing Ahead /Pexels

ナイトライフビジネスのリスク対策

 タイの英字紙「バンコクポスト」は、2月27日の社説で、行動規制をどのように緩和したら良いか、論じた。

https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2270631/dont-forget-the-nightlife-industry

 社説が強い懸念を示すのは、バーなどの「ナイトライフ」ビジネスである。タイ政府は、オミクロン株による新規感染者が1日に2万人を超える現在も、オミクロン株による感染は「重症化しにくい」と判断し、以前のようにロックダウンや夜間外出禁止令を発してはいない。

 「オミクロン株は死亡に至る可能性が比較的低いことを示す国内外のデータが豊富にある。また、国民の7割以上がワクチン接種を2回終えている状況から、保健省は集団免疫の獲得までもうすぐだという見通しを示しており、明るい明日を期待させる」

 その一方で、社説は、コロナ禍によって深刻な打撃を受けたナイトライフ・ビジネスの人々が無条件にその判断を歓迎しているわけではない、と指摘する。重症化しにくいとはいえ、オミクロン株の感染者数は少なくなく、新型コロナと共に生きるためにはどうすればリスクを最小限にできるのかという基準があいまいだからだ。

 何を恐れて、何を恐れなくていいのか。過剰な対応は、人々を委縮させ、経済の動きを止めてしまう。社説はタイ政府に対し、ニューノーマルの確立とコロナ対策の見直しを求める。

 「市中感染が当たり前になっている今、入国者に新型コロナの感染テストを受けさせることは望ましくない」「自宅療養で十分な症状であっても、一律、入院による隔離と治療を求めて多額の支払いを強いることをやめれば、我々はパンデミックから一歩抜け出すことができる」と、社説は主張している。

注目される大統領選

 フィリピンでは1月中旬、1日あたりの感染者が4万人近くにまで上ったが、2月末には1000人前後にまで減少し、「ニューノーマル」が議論されるようになっている。フィリピンの英字紙「デイリーインクワイアラー」は、2月28日の社説で、これを論じた。

https://opinion.inquirer.net/150435/moving-to-the-new-normal

 社説によれば、フィリピン政府は2月27日、マニラ首都圏と近郊を、3月から行動制限レベルで最低レベルに引き下げることを発表した。これにより、域内の企業では全社員が出社できるようになり、感染予防対策を実施しつつ、通常業務に戻ることが可能になった。

 この判断を歓迎する一方、社説は5月9日に控えたフィリピン大統領選と、その前哨戦となる地方選挙のキャンペーンを懸念する。フィリピンの選挙戦は、米大統領選と同様、大規模な政治集会が特徴だ。せっかく戻った日常が、派手な選挙戦の展開により台無しになる恐れもある。

 社説は、「政治集会やキャンペーンは、よくモニターされなくてはならない。また、もし候補者や支持者が、感染予防対策を怠るようなことがあれば、制裁を受けなくてはならない」と、主張する。新型コロナ対策とニューノーマルは、フィリピン大統領選でも争点の一つとなるだろう。

国民に寄り添ったキャンペーンの展開を

 多くの国で「次の一手」としてニューノーマルが語られる中、「ワクチン接種」が進まず足踏みをしている国もある。ネパールの英字紙「カトマンドゥポスト」は2月15日、「ワクチンの不公平をなくせ」と題した社説を掲載した。

(https://kathmandupost.com/editorial/2022/02/15/end-vaccine-inequity)

 ここで主に語られているのは、ワクチンの不足ではなく、ワクチンへの理解の格差だ。

 「全国で、多くの人々がワクチンをまだ接種していない。彼らは、ワクチンに対する基本的な情報が不足している。ポスト紙が報じたように、ある地区では70世帯がワクチンを1回も受けていない。彼らは、ワクチンについての情報が何もなく、何を、何のために注射するのか分からない、と主張している」

 社説は、こうした集落は複数存在していると指摘した上で、「ワクチンは、用意する政府の側と、接種を受ける国民の側の両方の集団的な責任において遂行されるべきものだ。しかし、接種を受ける側が何の情報も持っていないとしたらどうだろう」と、疑問を投げかける。

 その上で社説が指摘するのは、国民に寄り添った接種キャンペーンの展開だ。文字が読めない人たちもいる社会では、ネットなどに頼るのではなく、例えば一人一人に向き合って説明することが必要だ。「たとえば、ボランティアを雇って一軒ずつ訪問し、キャンペーンを行ってはどうか」と、社説は提案する。

 ワクチンが入手できても、それを「最後の一人まで」接種するためには、それぞれの国の実情に合った政策が必要だ。ワクチン格差の根底にあるのは、経済力だけでなく、教育の格差や情報の格差であることがよく分かる。

 

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