パキスタンで脅かされる「報道の自由」
政治対立の末に標的となった記者たち

  • 2023/6/24

 パキスタンで5月9日、パキスタン正義運動(PTI)の党首であるイムラン・カーン前首相が身柄を拘束された。大学設立を巡り不正な不動産取引が行われたとされる「アル・カーディル信託事件」に関わったという嫌疑がかけられていた。同国ではこれに抗議するPTI支持者と治安当局が衝突し、情勢が不安定化。3日後には、同国最高裁が「逮捕は不当」だという司法判断を示してカーン氏は保釈されたのだが、この一連の出来事を通じて、パキスタンで報道の自由が侵害されているという事実が浮き彫りになった。

(c) Terje Sollie/pexels

ジャーナリストの仕事をしただけで
 パキスタンの英字紙ドーンは5月24日付の紙面に、「ジャーナリストへの嫌がらせ」と題した社説を掲載した。
 社説によれば、カーン前首相の拘束に抗議して5月9日に起きた大規模なデモに対し、治安当局は「関わったとされるすべての人物を逮捕する」とした。その結果、この日、「数百人ものジャーナリストが、職務を遂行しただけで警察に追い回された」という。ラホール記者クラブの会長は、「5月9日以降、約250人ものジャーナリストが警察の嫌がらせを受けた」と訴えている。
 当局の姿勢を、社説は次のように批判する。
 「悲しいことに、こうしたやり方は植民地時代の方法をそのままなぞったものだ。国家は何十年もの間この戦術によって、邪魔する者はこのような目に遭う、というメッセージを伝えてきた。しかし、単に仕事をしているだけの記者たちを標的にしたことは、何ら正当化できるものではない」
 さらに、「PTIに対する弾圧そのものも容認できることではないが、PTI弾圧を隠れ蓑にしたジャーナリズムの抑圧はさらに許されることではなく、今すぐ止めるべきだ」と続け、治安当局を強く非難している。

報道の自由度が高い国でも課題は山積
 一方、マレーシアでは、英字紙ザ・スターが、5月29日の「全国ジャーナリストの日」に先立ち28日付で報道の自由についての社説を掲載した。
社説は、「国境なき記者団」が発表した「世界の報道自由指数2023」を引用しながら、「マレーシアにおける報道の自由度は向上した。これは支持されるべき進歩だ」と、評価した。国境なき記者団によると、マレーシアの報道自由指数は180カ国中73位で、前年から40位も順位を上げた。隣国タイは106位、インドネシアは108位にとどまっており、マレーシアはASEAN10カ国の中でも最も高い順位だという。
 しかし社説は、「だからといって報道関係者の地位が向上しているわけではない」と指摘する。
 「1984年の印刷出版法、1972年の公安秘密法、1948年の扇動法のように報道の自由を抑制する法律が、まだ有効だ。これは、民主主義にとっても、メディアと政府の協力関係にとっても、良いことではない」
 社説はこう述べて報道の自由が保証される必要性を強調する一方、フェイクニュースのまん延など社会問題への懸念も示し、「健全なメディア運営のための教育や、業界自身による自己監視の仕組みが必要だ」と訴える。
 「メディア業界の倫理や、メディア関係者の誠実さを確認する必要がある。そうした取り組みがあってこそ、社会におけるメディアの地位向上につながる」
           *
 報道の自由への抑圧は、ジャーナリストの逮捕といった目に見える形だけでなく、見えない形でじわじわと進行することもある。メディアが権力に飲み込まれてはいないか、それを監視する役割の一端は、情報の受け手である私たち市民にもある。

 

(原文)
マレーシア:
https://www.thestar.com.my/opinion/columnists/the-star-says/2023/05/28/pressing-need-for-freedom

パキスタン:
https://www.dawn.com/news/1755351/harassing-journalists

 

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