アジアの社説に見る「より良い選挙」に向けた課題
当選をゴールにせず国民の要望に対応を
- 2022/6/22
民主主義の基本となる選挙。先進国か新興国を問わず、完全に公正な選挙の実施はとても難しい。結果が出るまで1年以上かかったり、数多くの不正が報告されたりと、さまざまな問題が噴出する。アジア各地で実施された選挙の課題を、社説から拾い上げてみた。
ネパール「アピールにとどまらない予算措置を」
今年11月に総選挙が実施されるネパールでは、今、来年度の予算審議の真っ最中だ。5月30日付のネパールの英字紙カトマンドゥポストは、社説でこの問題を採り上げた。
同紙によれば、5月末に現在の連立政権が提案した予算規模は、1兆7,900億ネパールルピー(約1兆9480億1460万円)と、大型だ。しかし社説は、「予算の目玉となっているのは、インフレや失業問題など国民が喫緊に対策を求めている項目ではない。多額の予算は、近づく総選挙に向けたアピールに過ぎない」と、厳しく指摘する。
さらに同紙は、当初予算をいくら多く積んでも、年度末には足りなくなり、下方修正することになると指摘する。実際、2021-2022年予算も、当初は1兆6,300億ネパールルピー(約1兆7738億9040万円)積まれていたが、年度末には1兆4,400億ネパールルピー(約1兆5664億2350万円)に下方修正された、という。
予算計上とともに語られた政策の中には、年金受給年齢の引き下げや、国家公務員の給与の引き上げ、医療サービスの充実など、人々の暮らしを向上させるためのものもあった。「これらはもちろん歓迎されるべき政策だが、国民が注目しているのは、何が実施されていないかということだ」と、政治家たちに警告する。
新バンコク都知事に厳しいまなざし
9年ぶりに選挙が実施されたタイの首都バンコクの都知事選は、5月22日に投開票され、2014年のクーデターで倒された元タクシン首相派のチャチャート元運輸大臣が当選した。クーデターで実権を握った現政権にとっては、逆風とも言える結果だ。
タイの英字紙バンコクポストは、まだ当選者が確定していなかった5月23日付の社説で、「バンコク知事にはその勝利を喜んでいられる余裕はない」と、書いた。
都知事選がしばらく実施されなかったこと自体は、2014年のクーデターやその後のコロナ禍が理由だが、「民主的な選挙が実施されるまで9年かかった。しかし直面する課題は、待ったなしだ」と、社説は指摘する。雨季の洪水被害や、コロナ禍による失業、経済状況の悪化の被害を被った人々への対応、環境問題など、大都市が抱える問題は多岐にわたり、かつ、山積している。社説は、政治は選挙がゴールではない、と主張しているのだろう。
フィリピンの社説は大統領選めぐる問題を指摘
5月9日に大統領選が実施されたフィリピンでは、1986年の「ピープル革命」でフィリピンを追われた故マルコス元大統領の長男であるフェルディナンド・マルコス氏が、次期大統領に当選した。副大統領候補として共に闘ったドゥテルテ現大統領の長女、サラ氏への支持が高かったという見方もある。
フィリピンの英字紙デイリーインクワイアラーは、大差がついたこの選挙について、「地すべり的な歴史的勝利」と語った有力政治家の言葉を5月27日付の社説で引用した。社説によれば、今回の大統領選の投票率は82.4%。過去最高だったという。また、たった2日で公式結果が出されたことや、ライバル陣営が選挙結果に異議を申し立てなかったことも、これまでにないスムーズさだった、という。
それでも社説は、この選挙にさまざまな問題があったと指摘する。例えば投票の際の計数機に不備があり、全国から約1800件の故障報告があったこと。未使用の投票用紙や、投票箱が廃棄されているのが発見されたこと。また、1173件の買収が報告されていること、などだ。
社説は、問題が比較的小さく見えた選挙であっても、あるいは、結果そのものを覆すような事件ではないとしても、「結果オーライ」ではなく、一つ一つの報告に向き合うことが大切だ、と訴える。「次の選挙に向けて、今から改善しても早すぎることはない」。結果としての票数だけを見るのではなく、一票一票の意味を尊重することが大事だ、と言っているのだ。
(原文)
ネパール:https://kathmandupost.com/editorial/2022/05/30/an-eye-on-the-elections
タイ:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2314138/governor-set-for-early-tests
フィリピン:https://opinion.inquirer.net/153361/making-elections-better