フィリピンの感染拡大は抑制されているのか
正確なデータに基づき判断くだせ

  • 2020/5/14

フィリピンのロケ大統領報道官は5月12日、新型コロナウイルス感染予防のための防疫強化措置(ロックダウン)を期限が切れる5月16日以降も、マニラ首都圏とセブ島で5月末まで措置を延長することを明らかにした。そのほかの大半の地域では、制限が緩和された防疫措置がとられるほか、マニラ首都圏でも、必要と判断される経済活動は認められるという。フィリピンの英字紙「インクワイアラー」は、ロックダウン解除の判断のもととなるデータについて、保健省の見解の「甘さ」を指摘する。

新型コロナウイルスの感染拡大防止の一環でコミュニティ検疫を推進するため、検査設備が並び検査場に変わったフィリピン・マニラのスポーツ施設(2020年5月11日撮影) (c)AP/アフロ

楽観的過ぎる政府

 マニラ首都圏のロックダウンが開始されたのは3月15日だった。今回決定された通りに措置が5月末まで実施されれば、中国・武漢のロックダウンに並ぶ長さになるという。東南アジアの他国に比べて早い段階でロックダウンに踏み出したものの、感染の封じ込めには至っていない。フィリピンの新型コロナウイルスの感染者は5月12日までに1万1,000人を超え、死者は726人となっている。

 社説では、今回のロックダウンの再延長について、「感染拡大が最も深刻なマニラ首都圏やルソン島のほかの地域に住む人々にも広い範囲で影響を与える重大な決断だ」と、している。そして、ロックダウンを続けるのか、解除するのかを判断するのに必要な、感染者をめぐる「データ」について、まず楽観論を紹介している。

 その一つは、感染者数や死亡者数の増加のスピードだ。疫学者のジョン・ウォン博士は、現在、感染者数が2倍になるのに平均で4.6日かかっているが、3月半ばにロックダウンに入る前にはわずか2.5日で2倍になっていたことを考慮すると、「より長い時間がかかっている」と、指摘する。

 さらに社説は、もう一つの改善の指標として、フィリピン保健省の次官が、「陽性率」の減少を挙げていることを紹介する。次官によると5月6日現在、フィリピン国内で1万3,1786人が新型コロナウイルスの検査を受けており、そのうち1万3,405人が陽性だった。陽性率は10%だ。これは、4月6日の時点の陽性率17%よりも下がっている、と次官は言う。

 ただ、社説はここで、「これらはどのぐらい信頼できるものなのだろうか。専門家の中には、検査が徹底されていないことや検査結果の信頼性に疑問を呈する人もいる」と、指摘する。

 例えば数学者のフェリックス・ムガII博士は、テレビのインタビューに答え、「感染者数は今も増え続けており、実行再生産数(一人の感染者が何人に感染させるか)は、まだ1を超えている。もし感染拡大が抑制傾向にあるなら、実際の感染者数は減るはずではないか」と、話している。

検査数の少なさが課題

 ここで社説は、「検査数の少なさが最大の課題だ」と、指摘する。

 5月7日現在で、フィリピン国内で実施された検査は14万1,080件である。社説は、「フィリピンの人口は全土で1億人以上、マニラ首都圏だけでも1,280万人に上ることを考えると、検査数は非常に少ない」と、厳しく批判する。

 「保健省は、1日に3万件の検査をしようと取り組んでいるが、4月末時点の1日あたりの検査数は8,000件にとどまっている。これは、政府も失敗だと認めている。さらにほとんどの検査は発症している人や持病のある感染の危険性の高い人、感染の可能性がある医療従事者に限られている。世界的なデータによると、陽性だった10人のうち3人は発症していない。こうした無発症の感染者がフィリピン国内にどれだけいるかは、いまだ明らかになっていない」

 さらに、アジアの他国と比べて、いかにフィリピンの検査数が少ないかを指摘する。「フィリピンの検査人数は、100万人に対して1,379人。その数は、ベトナムの2,681人、タイの3,264人、韓国の1万2,773人に比べて明らかに少なすぎる」

 社説は、検査数が圧倒的に少ないことで、誤った判断を導かれる可能性があることに強い警戒心を示す。「ワクチンの開発もまだ先が見えていない今、政府と国民が払った犠牲が誤った不完全なデータによって無駄にされてはならない」。

 未知のウイルスに立ち向かう難しさ、は、どの国でも変わらない。日本でも連日、感染者数、検査数、陽性率といったデータが報道されている。広い視野で科学的な数値を冷静に分析し、積み重ねることが、政治家にも科学者にも、そして市民にも求められている。

(原文:https://opinion.inquirer.net/129727/are-we-there-yet-3)

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