タイの首都バンコクで広がる反政府デモ
首相と警察の食い違い、問われる政権の真意
- 2020/8/23
タイの首都バンコクで、学生たちを中心に反政府抗議運動が広がっている。7月半ば以降、学生主導による反政府デモが毎日のように起きており、タマサート大学などで4000人規模の集会が開催されたのに続き、8月16日にはバンコク中心部で1万人が参加する抗議行動も行われた。8月17日付のタイの英字紙バンコクポストは、この問題を取り上げている。
対話の姿勢打ち出す首相
社説によると、プラユット首相は「反政府運動に参加する若者たちの話を聞き、対話をする用意がある」と表明している。テレビ演説に臨んだプラユット首相は8月13日、次のように述べ、学生たち若い世代が国にとっていかに重要であるか強調した。
「未来は若い世代のためにある。私たちの未来も彼らの手の中にある。この国家的困難の時に苦しんでいるたくさんの人々のために、私たちとは違う意見を持つ人々といかに協力したら良いか、若い世代の人々にその方法を示してもらおう」
しかし、警察はこの演説が行われた翌日、扇動罪を含む複数の容疑で学生運動のリーダーを逮捕した。警察の発表によると、容疑は、7月18日に民主記念塔で実施された反政府抗議運動に関連するものだという。学生たちは、プラユット現政権の退陣や国会解散、憲法改正を要求していた。この逮捕について、社説は「警察が首相の前向きな取り組みを邪魔した」と、批判する。
社説によれば、プラユット首相は本件に関し、「警察と距離を置いている」と主張しているという。また、政府報道官の言葉として、「プラユット首相自身が学生リーダーたちの逮捕を指示したことはない」「すべては警察の判断であり、首相は警察の判断に介入できない」と伝えている。
その上で社説は、「本当だろうか?」と、疑問を投げかける。「首相は、自らの対話の努力を水泡に帰すような警察の行動に対して、本当に何もできないのだろうか。7月18日の抗議行動で学生たちが掲げた要求は、十分に議論に値するものだ。彼らの表現の自由や平和的な集会を開く権利は、憲法で保証されている。今回の逮捕は、緊張を高めるものでしかない」
社説は、首相が対話の姿勢を示していることに一定の評価を下しながらも、警察が若手リーダーを逮捕するという矛盾した事態が起きたことを受け、政権の真意について疑問を投げかけたと言えよう。
学生たちは法の順守を
その一方で、学生運動のあり方についても、社説は「注文」をつけた。
「たしかに政府は学生たちの表現の自由を尊重し、要求に柔軟に対応すべきだが、その一方で、学生たちも、自身の行動を正当化しようとするなら、法律を遵守しなければならない。学生たちは、王室の改革というセンシティブな話題を採り上げている。王室について語ること自体は、建設的かつ侮辱する意図がない限り、犯罪ではないが、確実に法律の範囲内で行われなければならない問題だ。学生たちには法律を変えるよう要求する権利があるが、そうであっても、実際に法律が改正されるまでは遵守しなければならない」
また社説は、学生運動が2月21日にアナコットマイ党(新未来党)が解散されたことに抗議する反政府運動と深く連携していることに懸念を示す。「学生たちは、政治グループから距離を置くべきだ。平和的で建設的、かつ純粋な抗議行動である限り、学生たちは守られ、行動や要求は正当化される」
新型コロナウイルスの感染拡大を比較的抑制できているタイだが、国外からの感染流入を防ぐために、非常事態宣言は8月末まで延長されている。世界的な不況がタイ経済に濃い影を落とすことも確実であり、タイ国内は、経済的にも政治的にも、不安定な状況が続きそうだ。
(原文: https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/1969379/police-are-defying-govt)