「孤立する知的障害者に居場所を」フィリピンで支援施設を立ち上げた日本人
「できることがある」という光 社会資源のないボホール島で一隅を照らす
- 2024/4/10
「どの子どもたちにも自宅の近くに居場所を」
そんな酷烈な同国の状況を考えると、バビタの家は、ボホール島の知的障害者にとって間違いなく希望の場所だ。しかも、施設の利用は無料。出費を抑えるため、杉山はほぼ自給自足で生活し、足りない時にはなけなしの貯金を切り崩して運営してきた。
それでも、杉山には「虐げられている知的障害者の支援に身を捧げよう」といった、自己犠牲的な情熱は皆無だ。それどころか、他人に褒められるとあからさまに戸惑った顔をする。「私は自分が楽しめる範囲で、できることをやっているだけ。使命感なんて全然ないんです」。さらに、「生徒をいつまでに何人に増やそう」という目標もまったく立てていない。「自分の力では、来たい人が来てくれる今の程度がちょうどいいんです」と、あくまで自然体だ。
だが、現状が改善されてほしいという願いは、いつも杉山の胸にある。「ボホールの人たちがここの理念に共感し、別の地域でも同じような施設を開いてくれたらいいな、と思います。そうすれば、どの子にも自宅の近くに居場所ができるし、地域の人も彼らの生き生きとした姿を見られるようになる。バビタの家が、そのためのモデルケースになれたら嬉しいです」。いつも自然体の杉山の口調に、少し熱がこもった気がした。
バビタの家はこの地域の知的障害者をとりまく現状に、小さな一石を投じた。その波紋はゆっくりと広がり、関心を持つ人も増えている。SNSでの活動報告などを見て、知的障害者とその家族が見学にきたり、他の島の障害者団体から連絡をもらったりすることもある。またボホール島の公立高校で使われている英語科の教科書にも、杉山の活動が紹介されている。
いずれこの小さな施設は、地域社会を少しずつ変えていくかもしれない。杉山はその可能性には無頓着なまま、今日もボホール島の片隅で、一隅を照らし続けている。
バビタの家では、随時、ボランティアを募集している。また、自給自足を実践できる宿泊体験や、レイモンドがミニチュア三輪タクシーの制作を教えるワークショップなども実施している。