米中露の綱引き、迷える大国インドの行方
「民主主義」と「新ロシア」のはざまで迫られる決断

  • 2022/6/15

 日本と米国、オーストラリア、インドによる戦略的枠組み(QUAD)の首脳会合が5月24日、東京で開催された。その日、中国とロシアの爆撃機が、日本海と東シナ海、太平洋を共同飛行したと報じられた。「中国包囲網」とも見られているQUADの動きをけん制するかのような行為に、日本の岸信夫防衛相は「わが国に対する示威行動で、挑発的」と、両国に対し重大な懸念を伝えたという。
 2月から続くロシアによるウクライナ侵攻は、世界各国それぞれの「対ロシア政策」の在り方を問うきっかけになっている。しかしそれだけではなく、ロシア非難には与しない中国との関係性についても、多くの国が頭を悩ませている。

ジョーバイデン米大統領、ナレンドラモディ印首相、アンソニーアルバンス豪首相とともにQUAD会合に臨む岸田文雄首相(5月24日撮影)(c) 内閣官房内閣広報室

地元英字紙はベトナムモデルを主張
 悩める国々の筆頭は、インドであろう。インドは伝統的に親ロシアの立場であり、ロシアから最も多額の武器を購入する国でもある。一方、イデオロギーとしては民主主義を掲げており、米国が作ろうとしている「民主主義国家と権威主義国家」という分け方で言えば、権威主義国家に加わるわけにはいかない。
 インドの英字メディア「タイムズオブインディア」は、5月25日の社説で、「どのように立場を決めるか:日本周辺における中国・ロシアの共同飛行からのメッセージ」と題し、インドが今後、どのような立場をとるかを論じた。
 社説によれば、ロシアと中国の爆撃機の共同飛行訓練は、ロシアがウクライナ侵攻を始めてからは初めてのことだったという。そして、両国の軍事的な連携が深まっていることを誇示するものだ、と指摘する。
 「同じぐらい懸念されるのは、ロシアのセルゲイ・ショイグ防衛大臣が、『ロシアは全ての目的を遂行するまで、ウクライナでの軍事行動を終わりにしない』と述べたことだ。モスクワには、戦争を終わりにする気などさらさらない、という意味だ」
 社説は、日本でQUAD首脳会合が開かれている間に起きたこの出来事をめぐり、「ロシアと中国が、彼らが言うところの『西欧諸国による支配』に対抗し、国際的な秩序を塗り替えるために軍事戦略的に協力することが明らかになった」と、指摘する。また、中国とロシア両国の首脳に共通する思いとして、ロシアは、崩壊したソビエト連合を復活させることを、中国は中華帝国の栄光を取り戻すことを、それぞれ積年の恨みのように深く抱いている、との見方も示す。
 さらに社説は、「中国は、ロシアの軍事力をインド太平洋地域の戦略的な安全保障対策に利用するだろう」と、見立てる。
 そんな中露と欧米の綱引きの中で、インドは明確な態度を示すことができずにいる。国連のロシア非難決議においては、いずれも「棄権」を選んだ。社説は、「インドの外交はインドの利益となるものでなければならない。現在の地政学的状況から見て、インドは西側諸国に付くべきだ」と、明確に主張する。
 社説はさらに、「モデルはある。ベトナムだ」と述べる。ベトナムは共産主義の国であるにもかかわらず、公然と隣国・中国と対立し、米国や日本が主導する西側の経済枠組みに参加する。ベトナムはロシアとも歴史的に深い関係にあるが、それが米国など西側諸国との関係を深めることの支障にはなっていない、と言うのだ。
 「共産主義のベトナムがこのように明敏な立場をとることができるなら、インドもそうしなくてはならない。ロシアのウクライナ侵攻について、永遠に中立の立場を保ち続けることは、インドにとって賢い外交戦略とは言えない」

「シャングリラ・ダイアログ」控えるシンガポール

 米中関係は今後、どうなっていくのか。インドメディアが懸念するように、冷戦時代のような対立を深めていくのだろうか。
 これについて、シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは5月31日付の社説で、「米国は完全に中国と対立しようとはしていない」という見方を示している。シンガポールでは6月に「シャングリラ・ダイアログ」という各国の国防大臣が集まる会合が予定されている。ここにはオースチン米国防長官も参加する予定で、詳細はここで語られるだろうとしている(編集部注:6月10日に開催)。
 ストレーツタイムズの見立ては、米国の方針が必ずしも「新冷戦」を掲げるものではなく、また中国が超大国となっていくことを阻むものでもない、というものだ。ただ、米国の戦略は、完全対立は避けながらも、「完全なオリーブの枝」ではない、とも見ている。しばらくは、世界の国々を巻き込んだこの綱引きが続くということだろうか。そうであれば、インド政府も、明確な判断まで今しばらくの猶予が与えられそうだ。 
 

(原文)
インド:https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/how-to-take-sides-theres-a-message-to-india-from-the-chinese-russian-air-force-exercise-near-japan/
シンガポール:https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/the-straits-times-says-us-sharpening-strategy-towards-china)

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