「ドクターM」の衝撃、再び
マレーシア首相の辞任を隣国インドネシアはどう報じたか
- 2020/3/3
マレーシアのマハティール首相が2月24日、辞任を表明した。94歳、東南アジア諸国で最年長、ベテラン政治家でもあるマハティール氏の辞任は、自らの後継者争いをめぐる対立が理由とされた。その後、2月29日にはマハティール氏の思惑とは別の、前内相ムヒディン氏が首相に就任するという事態になり、マレーシアでは政権交代が確実視されている。
マレーシアと同じ東南アジアのイスラム国であるインドネシアの英字紙、ジャカルタポストは、ムヒディン氏が首相に就任する直前の2月26日付けの社説でこの話題を取り上げている。インドネシアにとって、マレーシアは移民労働が最も多い国の一つであり、その経済状況はインドネシア国民の生活にも影響を及ぼすため、高い関心を呼んでいるようだ。
変化への切望が押し上げたマハティール首相
「マレーシアの政治については、過去数年の間、驚かされてきた」。ジャカルタポストの社説は、このように始まる。「マハティール首相の辞任は、計算された上でのことのようだが、驚きをもって受け止められた。希望連盟の分裂も、だ」
94歳のマハティール氏は「ドクターM」と呼ばれ、言うまでもなく東南アジアの代表的な政治指導者である。首相就任後も、「自分がずっと首相でいるつもりはなく、数年で移譲する」と語っていた。彼が後継者として想定していたのは、アンワル元副首相だ。
社説はここで、マハティール氏が首相に返り咲いた2018年の総選挙を振り返る。「2018年の選挙結果は、マレーシア国民の<変化>に対する切望を反映したものであった。当時のナジブ・ラザク政権が政府系ファンドであるワン・マレーシア・ディベロプメント(1MDB)の巨額資金を流用したのではないかという疑いをはじめ、さまざまな汚職疑惑がマレーシアを汚職体質に陥れたからだ」
その上で社説は、「しかし、国民の期待を背負って誕生した新しい政権も、マレーシアの経済発展にとって適切な環境を築くことはできなかった」と、指摘する。「新しい連立政権も外的要因に妨げられ、中国や米国との関係改善や新卒者の失業率低下など、経済発展に向けた動きをもたらすことはできなかった」
移民労働から反テロリズムまで
さらに社説は、「次の政権の座に誰が就いても、経済的には大変に難しいかじ取りを求められるだろう」「それは、マレーシア国民のためだけでなく、マレーシアに多く移民労働者を送り込んでいるインドネシアにとっても重要な問題である」と、指摘する。
マレーシアは、1970年代から「ブミプトラ政策」と呼ばれる政策をとってきた。これは、中国系やインド系の国民よりも、人口の6割を占めるマレー系民族の地位向上を図る政策で、教育、就職から政治までさまざまな分野にわたる。社説は「この政策をマレーシア国民は支持している」と、指摘した上で、次のように結んでいる。
「隣人がどのような政治システムを受け入れるとしても、私たちはそれを尊重し、過去の経験から学ばなくてはならない。パームオイルから反テロリズムまで、相互に幅広く、かつ深く関わっているマレーシアとインドネシアは、両国の協力を強化しなくてはならない」「マレーシアは、インドネシアからの移民労働者が最も多く働いている国の一つであり、両国国民の幸福な暮らしに影響を与える事柄については、なおさら協力が必要だ。私たちは同じ根を持つ兄弟姉妹である。マレーシアに幸運あれと祈る」
隣国がじっと見守るなか、マレーシアでは「復権」を目指したマハティール氏の思惑がはずれ、再び与野党の政権交代が起きそうだ。この社説は、現代が、隣国の国内政治が庶民の暮らしにも直接影響を与えかねないボーダーレスの時代であることを教えてくれる。
(原文:https://www.thejakartapost.com/academia/2020/02/26/dr-m-strikes-again.html)