スリランカの社説「国連は内政に安易に踏み込むな」と訴え
調整官のツイートへの反発から透けて見えるもの
- 2021/9/30
スリランカで9月半ば、刑務所管理・矯正担当大臣が、少数民族であるタミル人の受刑者を「殺す」と脅したとして批判され、辞任した。これを受け、国連常駐調整官が「受刑者の人権を守れ」とツイートしたことについて、9月17日付のスリランカの英字紙デイリースターは、社説でこの問題を採り上げた。
波紋を呼んだ国連調整官のつぶやき
現地からの報道によると、スリランカのロハン・ラトワット刑務所管理・矯正担当大臣は、タミル人受刑者2人に対し、銃を突きつけるなどして脅したという。事実関係は調査中とされているが、同大臣は9月半ばに辞任した。この事件を受け、ハムディー国連スリランカ常駐調整官は自身のツイッターで、「マンデラルール」と呼ばれる被拘禁者処遇最低基準規則を引用しながら、「受刑者の人権を保護するのは国家の責務だ」と指摘した。この「マンデラルール」とは、受刑者の処遇改善について国連加盟国の努力を促すもので、処遇の最低基準を明示した国連決議のことを指す。
社説は、大臣が脅迫したことについては批判的であるものの、国連調整官のこの「つぶやき」に対しては、強く反論している。
「発言は一見無害なものに見えるが、よく考えてみれば、調整官の発言は、国家主権の範囲に相当する司法に踏み込んだ内容だ。スリランカ政府は受刑者の権利についてよく理解しており、刑務所内の過密状態の問題を緩和するために努力しており、新たに刑務所も建設した。また、支払いができない罰金の金額がわずかな場合は保釈を行うなど、刑務所の環境改善にも努めている」
主権国家としてのプライド
さらに社説は、この問題は組織的なものではなく、一人の大臣が引き起こした個別の問題だ、と指摘し、「事件が起きた刑務所からの報告によれば、刑務官たちは、脅された2人の受刑者を含むすべての受刑者を守ろうと努力をしている」と指摘する。
事件そのものは、事実だと認定されれば、断じてあってはならないことである。しかし、この社説から透けて見えるのは、途上国と国連との関係だ。スリランカに限らず、途上国は必ずしも国連に「従順」ではない。「私たちは国連の子どもではない」と発言した途上国の首脳もいた。
調整官の、一見、正論に見える発言に対して社説が敏感に反応したのも、途上国を「子ども」のようにとらえる「先進国」の発想が透けて見えたからではないだろうか。
社説はその最終段落で、スリランカがこれまでいかに国際社会の構築に貢献してきたかをつづっている。
「スリランカは、決して孤立主義者ではなく、国際社会の価値や関係を重視してきた。非同盟運動を牽引する国の一つとして、1976年には非同盟諸国会議を主催したうえ、二極化が進む現在の国際社会では、中立的な立場とすべての国に対する友好的な姿勢を維持している。スリランカは、国際社会と足並みをそろえてはいるが、主権国家として、運命のカギは自ら握っているのだ」
そのうえで社説は、冒頭で米国のリンカーン・シャイフィー元上院議員の次の言葉を引用し、「外交の技術」を説く。
「外交の世界では、言わない方がいいこともある」
途上国と呼ばれる国々の社説をみると、日本人として生きる私たちが気づかなかった視点を提示されることがある。調整官の指摘は、間違ってはいないだろう。しかし、そこにどのような視点があるのか、どのような立ち位置でこの発言をしたのか。事件の背景をどのぐらい理解して発言しているのか。社説が主張する「外交の技術」とは、まさにこの点なのだろう。
(原文https://www.dailynews.lk/2021/09/17/editorial/259557/art-diplomacy)