香港の人々に学べ
フィリピンで蘇る「ピープルパワー革命」の記憶

  • 2019/9/17

 フィリピンの英字紙「フィリピン・デイリーインクワイアラー」が9月7日、香港で続く市民の抗議デモについて社説で取り上げた。香港は、フィリピン人にとって、実はとても身近な存在だ。同紙は、香港で起きていることを、フィリピンがかつて経験したマルコス独裁政権時代の「ピープルパワー革命」と重ね合わせて論じている。

刑事事件の容疑者を中国本土に引き渡せるようにする逃亡犯条例の改正案に対し、反対市民が数十万人規模で抗議デモを行っていた香港では、9月に改正案が撤回された後も混乱が続いている (c) AFP/アフロ

誇りと恥ずかしさを併せ持つ存在

 社説は、フィリピンと香港の「近さ」について、冒頭でこう表現している。「フィリピン人は香港に対し、長い間、愛憎ともいえる複雑な感情を持ち続けている。フライトでたった1時間という距離的な近さもあって、多くのフィリピン人が最初の海外旅行先に選ぶのが香港だ。にも関わらず、彼らは帰ってくると、店員の失礼な態度や都会の冷たい人間関係、摩天楼の無機質さに文句を言う」

 もう一つ、フィリピンと香港の距離感を近くしているのが、多くの海外移民労働者たちの存在だ。香港へ出稼ぎに行くのは主に女性で、家政婦として働く場合が多い。社説は、「香港の人々はフィリピン人の家政婦に生活や家族の面倒を頼っているのだ、という誇らしさがある一方、貧しさゆえにフィリピン人女性たちが家庭を離れて働かなくてはならないkとに恥ずかしさもある。誇りと恥ずかしさが入り混じっているのだ」と、解説する。

巨大な力に立ち向かう決意と勇気

 このようにフィリピン人にとって「身近な」香港で、今、市民たちが「逃亡犯条例」改正案をきっかけとした抗議活動を続けている。社説は、この動きもまた、「香港の人々とフィリピン人の間に親類のような近しさを築いている」と、指摘する。「1986年に(マニラの目抜き通りの)エドサ通りに数百万に上るとも言われる人々が集まり、最終的には独裁者であるマルコス大統領(当時)とその家族や取り巻きを亡命に追い込んだ、あのピープルパワー革命の経験を人々に思い起こさせる」ためだ。

 フィリピン人は、ピープルパワー革命を今も誇りにしている。しかし、社説は「われわれが、あのエドサ革命(「ピープルパワー革命」)の成功体験を当然のように自慢し続けてきたこと、その怠惰な不遜さが、近年の情けない外交姿勢を招いたのかもしれない」と、振り返る。社説が指摘するのは、フィリピンのドゥテルテ大統領が南シナ海問題をめぐり対立していた中国に融和姿勢を示しつつあることだ。

 社説はこうして中国に歩み寄るドゥテルテ外交への嫌悪感をあらわにし、「さて、われわれに何が起きたのだろうか。国家としての尊厳に繰り返し打撃を受けながらも、それを“へつらう”とまでは言わなくても受け入れてしまうことを許すのか」と、苛立つ。

最後に、社説は読者に対して次のようなメッセージを発信する。「通りを埋め尽くした香港の人々は、勇気と忍耐力を示した。目覚めた人々が、自らの生き方と権利を守るため、決意と勇気をもって巨大な力に立ち向かえることを体現したのだ。フィリピンの人々は、彼らから多くを学ばければならない」

(原文:https://opinion.inquirer.net/123814/hk-folk-have-a-lot-to-teach-us)

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