コロナ禍で変わるフィリピン人の「幸福」
つのる政府不信とメンタリティの変化を地元紙が懸念

  • 2021/4/15

「明るい」「幸福度が高い」というイメージがあるフィリピン人だが、国連の機関から発表された2021年の世界幸福度報告によれば、前回調査より9ランクも下がったという。3月27日付のフィリピンの英字紙フィリピン・デイリーインクワイアラーは、社説でこの話題を採り上げた。

コロナ禍によって変わりつつあるフィリピン人の幸福感(c) Migs Reyes / Pexels

消えゆく笑顔

 「フィリピン人は長い間、“幸福な人々”というイメージを維持し続けてきた。しかし、“太陽のように明るい笑顔の人々”というわれわれ自身の認識とは逆に、今年発表された世界幸福度調査では、ランクをかなり下げてしまった」

 社説によれば、2021年度の世界幸福度調査では、フィリピンは149カ国中61位。この調査は、毎年行われる意識調査の結果を3年間分まとめ、その平均値で順位付けされるものだ。幸福度は1から10まで10段階でランク付けされ、2021年度調査ではフィリピンのスコアは5.88だった。前3年前の調査で52位、幸福度は6.006だったことを鑑みると、社説が失望をあらわにするのも無理はない。

 フリピン人の幸福度が下がったとされる背景には、もちろん、2020年の新型コロナ感染拡大が挙げられる。

 フィリピンで確認された新型コロナの感染者数は、今年4月初旬時点で累計約76万人。死者は1万3,000人を超える。また、1日あたりの新規感染者数も過去最悪のペースで増え続けており、3月末には1万人近くに達した。

 「現在、フィリピンは新型コロナの感染拡大が始まったころよりもずっと深刻な危機に直面している。世界でも最も長く、1年以上にわたりロックダウンを続けているにも関わらず、状況は悪化している。カブラル前保健相が言ったように、われわれは過去に逆戻りしてしまったどころか、感染発生時より10歩も後退してしまったと言える」

「表現の自由」の意欲も低下

 フィリピンの国家経済開発庁によれば、マニラ首都圏の人口の23%にあたる約320万人が「飢餓」を経験しているという。コロナ禍のために首都圏で50万人あまりが職を失ったと言われており、その中にはフィリピン経済を支えてきた海外移民労働者たちも含まれているという。

 「飢餓だけでなく、医療崩壊も近づいている。新型コロナの変異株が感染率を押し上げ、公立病院でも私立病院でも新型コロナ患者の病室は埋まり、収容可能人数を超えている。もっと恐ろしいことに、感染した人の97.5%が無症状であるため、つい油断し、頻繁に手を洗ったり、マスクやフェイスシールドを着用したり、ソーシャルディスタンスを保持したりといった感染予防の最低限の原則すら守られない可能性がある」

 社説によれば、ドゥテルテ大統領は「2020年の終わりまでに」ワクチンの接種によって新型コロナ感染状況が格段に良くなるだろう、と予測していたが、幻想にすぎなかったという。「ワクチンは入手が遅かった上、配分の仕方も不公平で、場合によっては世界保健機関(WHO)の定めるワクチン接種のガイドラインに抵触することすら懸念されている」

 社説は、コロナ禍がもたらしたメンタリティの変化を指摘する。

 「コロナ禍を受け、フィリピン国民は次第に民主主義の権利である表現の自由を行使したいと思わなくなりつつあるという。ある調査によると、65%のフィリピン人が、“政府に対して批判的なことを書いたり放送したりするのは、たとえそれが正しいことであっても危険だ”と答えたという。政府の体質が率直で良心的であれば、国民にそう思われることを遺憾に思うだろう。そのような感情を持たれるということは、国民が政府を恐れ、信じていないからにほかならない」

 明るさとホスピタリティのある人柄で世界中にネットワークを形成し、活躍してきたフィリピン人。すべてのことに光と影があるのはもちろんだが、その持ち前の明るさと強さすら、コロナ禍で削りとられてしまうのだろうか。 

 

(原文:https://opinion.inquirer.net/138854/our-unhappy-lot)

 

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