ラオスのダム決壊から2年
「アジアの電池」政策と「消費者の責任」、タイの社説が問題提起

  • 2020/8/7

 2年前の7月23日、ラオスのチャムパサック県で建設中の水力発電用ダムが決壊した。当時、少なくとも19カ村が被害を受け、多数の死者・行方不明者が出たことは記憶に新しい。7月30日付のタイの英字紙バンコク・ポストは、社説でこの事故についてとり上げた。

2018年7月26日、ラオスのチャムパサック県でセーピアン・セーナムノイダムの副ダムが決壊し、流域の村々を襲った (c) ロイター/アフロ

71人が死亡

 この事故で決壊したのは、セーピアン・セーナムノイダムの副ダムだった。2018年7月23日の午後6時ごろ、貯水されていた水が大量にセーピアン川に流れ出て、アタプー県内の村々を襲った。工事を請け負っていたのは、韓国、タイ、ラオスの合弁企業で、死者は71人、家を失った人は7000人にのぼった。

 社説は、この事故はタイと無関係ではない、と指摘する。「このダムで発電した電力のうち86%は、向こう27年にわたってタイが買い取る契約をしていた」ためだ。

 社説によると、被災者らは2年経った今でも仮設住宅で暮らしており、ラオス政府から約束された補償金を待っているものの、支払いが滞っているという。彼らは、家も、畑も、家畜も失った。セーピアン・セーナムノイダムは昨年より再稼働し、410メガワットを発電しているが、被災した住民のために合弁企業が補償することになっていた住宅の建設は遅れている。

 「住民たちは、もとのように畑を耕したり、働いたりする日常の生活にいまだに戻れずにいる。彼らは支援に頼らざるを得ず、健康問題や公衆衛生の問題が深刻化しつつある。ラオスは一党支配体制であるため、こうした声が外部に届く機会は少ない。しかし、彼らの存在は紛れもない事実だ」

犠牲に目を向けよ

 さらに社説は、「われわれタイは、このダムと深い関係がある。タイ人は被災住民らの現状に責任を感じ、連帯を示すべきだ」と、主張する。「彼らは、ラオス政府が自国を“アジアの電池”にするという政策の犠牲者だ」

 「タイの消費者は、被災者のためにもっと声を上げるべきだ。そして、ダムの開発プロジェクトを監視し、事業のパートナー機関や投資家が透明性をもって行動し、すべての人々の生活を尊重しながら公平性に基づいて電力開発を進めているかどうか確認しなければならない。タイとしては、問題の多いこのダムから供給される電気がどうしても必要というわけではない。電力消費者として、ラオスの住民たちがダムゆえに犠牲を強いられていることを自覚し、彼らの権利を守らねばならない」

 社説がここで、タイの人々のことを「電力の消費者」と呼んでいることに注目したい。消費者が生産背景を知りながら商品を選ぶことを、「エシカル消費」という。社説も、ダム開発の問題を、環境問題や人権問題、政治問題としてのみならず、エシカル消費の観点からアプローチする必要がある、との立場を明確に打ち出していることの現れだ。電気や水は、代替品や選択肢の多い商品と必ずしも同じではないものの、少なくとも生産背景に関心を持つことは可能であり、大切なことだろう。 

 

(原文https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/1959559/rethink-asia-battery-plan)

 

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