対中関係に揺れる東南アジア各国
台湾めぐり変質する中国との距離感

  • 2023/5/16

 「『台湾は中国の一部』との中国の主張をフィリピンが認めなければ、台湾にいるフィリピン人の海外就労者(OFW:Overseas Filipino Workers)の安全が危うくなる可能性がある」

 中国の黄渓連(こうけいれん)駐フィリピン大使は4月半ば、マニラで開かれた会合でこう発言した。フィリピンのマルコス政権は、親中派とされるドゥテルテ前政権の外交政策を承継したと見られているが、台湾をめぐり、中国との関係性に変化が起きている。

(c) Lara Jameson / Pexels

中国の脅しに反発するフィリピン

 フィリピンの英字紙インクワイアラーは4月19日、「本音を見せた中国」と題した社説で、この黄大使の発言を強く批判した。

 黄氏の発言の背景には、高まる台湾有事への危機感、そして台湾を支援する米国の存在がある。フィリピン政府は米軍に、台湾に近いイサベラ、カガヤン両州の国軍基地の使用を認めているのだ。地元紙の報道によると黄氏は、「台湾のOFW15万人の安全が本当に大切なら、米軍に基地を提供することで対立の火に油を注ぐのではなく、台湾独立に明確に反対すべきだ」と、発言したという。

 社説は「魚は口で釣られる」というフィリピンのことわざを引用し、黄大使の発言について「言葉は時に、隠している真実を無意識のうちに明らかにしてしまう」と評した。さらに「中国大使の言葉は、マフィアが被害者に対して ”命令に従わなければ暴力を振るう”と脅したり、”お前の家族に何かあってもいいのだな” と脅迫したりする時のような物言いだ」と、厳しく批判した。

 また、「中国は(台湾に対し)武力行使という手段を放棄していない」という黄大使の発言を受け、社説はこう述べる。「フィリピン政府は、中国が武力で台湾を奪還しようとする可能性も考え、早急に行動しなければならない。台湾はフィリピンから北にわずか159キロ、最も近いところでは飛行機で10分程度しか離れていないのだ」。併せて、「台湾有事が起きたときには、台湾で働くOFWを確実に本国に送り戻さなければならない」とも指摘した。

中国との関係強化を歓迎するシンガポール

 一方で、中国との関係の重要性を訴えたのは、シンガポールの英字紙ストレートタイムズだ。4月4日付の社説は、「新しい時代に向けて築く中国との関係性」と題し、対中関係強化の必要性を訴えた。

 社説は、リー・シェロン首相が6日間にわたり中国を公式訪問した成果について、「二国間の関係を未来志向のパートナーシップに格上げすることを決め、自由貿易協定の障壁をさらに緩めることで合意した」と、評価した。

 社説はさらに、中国の国際的な地位について「少なくとも今後5年間は世界ナンバーツーの超大国だ」としたうえで、その中国の首脳と直接会談し、親しくなることは「小さなシンガポールにとって喜ばしいこと」としている。

 社説は「たとえ2つの主権国家が完全に一致した見解を持つことはなくとも、困難を共に乗り越えてきたリーダー同士であれば、失策を避けることはできる。シンガポールのDNAには、率直な発言と誠実な仲介者としてのアプローチが備わっている」と述べる。また、シンガポールはこれまでも中国に対して「富と大きな力に伴う責任」について語ってきた、として、今後も経済面だけでなく戦略的な側面においても、中国との協力を強化していく必要があると主張した。

 

(原文)

https://opinion.inquirer.net/162485/china-unmasフィリピン

 

 

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