未曾有の危機に直面するシンガポール
「ピンチをチャンスに」 リー・シェンロン首相が国民に決意促す

  • 2020/6/11

 東南アジアで最も豊かな先進国のシンガポールが、新型コロナウイルスでは域内で最悪の状態に陥ってしまった。これまでに感染が確認された人は3万8,000人以上。死者は25人にとどまっているものの、深刻な状態が続いている。シンガポールのリー・シェンロン首相は6月7日、「新型コロナの危機が終わるまで1年以上かかるだろう」と述べ、国民の結束を呼び掛けた。シンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズは、10日付の社説でこの問題を取り上げている。

コロナ対策のために国立感染症センターを訪れ、キムヨンガン保健相と握手を交わすリーシェンロン首相(左) (c) AFP/アフロ

これまでと違う異質な危機

 まず社説は、「シンガポールは、独立以来、オイルショックや世界同時多発テロによる世界不況をはじめ、さまざまな危機を経験してきた」とした上で、新型コロナウイルスによる今回の危機は「これまで類のないもの」だと位置付ける。「新型コロナウイルスによる影響は、1973年に起きたオイルショックや、1985年、1998年、2001年、2003年、2005年の不況よりも長期化するだろう。この打撃から立ち直ることは、これまでの危機から回復してきた経験とは質が違う」

 あらゆる人、あらゆる産業、あらゆる国が影響を受けている点も、他の危機とは違う新型コロナの特異性だ。「これまでは、誰かが危機に陥っても別の誰かが助けてくれたし、不況により打撃を受けるのも特定のセクターや地域に限られていた。例えばテロ対策についても、一枚岩とは言えないまでも国際的な連帯が実現して脅威に打ち勝つことができた。しかし、新型コロナウイルスの感染爆発による影響は、単なる経済問題を超えている」

 そして社説は、新型コロナがもたらした深刻な打撃によって、社会や政治、人々のメンタリティまで変容しつつある、と指摘する。「パンデミックは、国と国との隙間を広げてしまった。米中間の貿易摩擦をはじめ、すでに結束が崩れ始めている世界のつながりが、今後、一層、打ち砕かれるかもしれない」「人々の移動が制限されたことで、旅行業や航空業界はダメージを受けているほか、生活必需品を輸入に依存することも減っており、シンガポールのように貿易に大きく依存する国にとっては、良くない傾向だ。自給自足の強まりは、保護主義や外国人排他主義を引き起こしかねない」

「信念をもって国を支えよ」

 これまでとは質が違う、根深くて長い危機。その中で、人々はどう希望を抱き続ければよいのか。社説は、リー首相の言葉を引用する。

 「リー・シェンロン首相が7日の日曜日に発言した通り、国際貿易は縮小しても、消えることはない。シンガポールはこれまでいかなる時も危機に備えて予測を立てたり、回復に向け計画を立てたりしてきた。変化する未来に向け教育や職業訓練の必要性を訴える政策は、コロナ禍以前より勧められてきたことだ」

 また、新型コロナウイルスの感染が広がり始めたころ、シンガポール政府は「国民を守るため」に大胆な経済策を打ち出した。コロナ対策のために組まれた予算は、GDPの20%にあたる930億ドルに上ると社説は明らかにし、こう呼びかける。

 「こうした政策が打ち出せるのは、シンガポールには今回の試練を乗り越える力がある、と指導者たちが信じているからだ。国民は、ピンチをチャンスに変えようという決意が必要だ。決して負けてはならない。希望を常に現実のものに変えて続けてきたこの稀有な国に対する自信を、われわれは決して失ってはならない」

 国民は、その強い信念をもって政府を支えよ、という社説の呼びかけは、東南アジアの経済をけん引してきたシンガポール人の自負をおおいに刺激するものに違いない。新型コロナウイルスによる大打撃というピンチを、多民族国家の結束を固めるチャンスへと変えることができるか。注目したい。

(原文:https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/keeping-confident-emerging-stronger)

 

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