インドのモディ首相が15年ぶりの国賓として訪米
大国のパワーバランスの中で存在感増すしたたかな外交戦略

  • 2023/7/15

 インドのモディ首相は6月22日、アメリカのバイデン大統領とホワイトハウスで会談し、防衛協力の強化や先端技術分野での協力を深めることなどで合意した。インドの首相としては15年ぶりの国賓となるモディ首相を歓待した米国。その背景に、新興国を中心とした「グローバルサウス」の中心的な存在であるインドを西側陣営に取り込みたい思惑が透けて見える。

アメリカ・ホワイトハウスの大統領執務室で会談するジョー・バイデン米大統領(右)と、インドのナレンドラ・モディ首相(2023年6月22日撮影) (c) AP/アフロ

インドは米国の「スイングステート」

 当事国であるインドは、首相の米国訪問をどのように報じたのだろうか。インドの英字メディア、タイムズオブインディアは6月22日付の社説で、「同盟による関係構築はすでに時代遅れであり、状況に応じた連携こそが必要であることが証明された」と評価し、モディ首相の訪米を通して両国の新たな連携関係が強化されたことを歓迎した。

 社説は、「『同盟』という視点から国際関係を理解しようとする枠組みはもはや役に立たない。同盟は冷戦時代には便利だったが、今では無用の長物だ」と指摘し、「同盟よりも連携」を優先した政治指導者の功績は大きい、と評価する。

 また、米中対立の本質は冷戦時代とは異なる経済対立であり、ある程度経てばやがて解消されるだろう、との見方を示す。その上で、インドの現在の立ち位置については「自国の能力と大国間の競争という環境下で有利な立場にある」と分析。米大統領選で勝利の行方を左右する「スイングステート」になぞらえ、「どちらの陣営にも属さないインドのようなスイングステートが、同盟国に匹敵する重要な意味を持つ」と、主張する。

米国と手を携え「中国パワー」に対抗

 米印両国の防衛協力強化に着目したのが、シンガポールの英字紙ストレーツタイムズの社説だ。モディ首相が訪米する前の6月13日付の社説で、「アメリカとインドが防衛関係を強化」と題し、両国の接近について論じた。

 社説は、「インドは兵器の供給を長らくロシアに依存してきたが、西側からも武器購入を着実に進めており、2008年以降、アメリカからの輸入額は約200億米ドル相当に上っている」と指摘し、武器取引におけるインドとアメリカの関係が強化されつつあることを示した。また、国防総省によれば、両国の協力は武器だけにとどまらず、「すべての軍事サービスにわたる作戦の強化」に取り組んでいるという。実際、今回のモディ首相の訪米では、両国がインドの戦闘機に搭載するジェットエンジンを共同で生産することなどが発表されたが、その背景にはこうした経緯があったというわけだ。

 一方、両国の接近の背景には、「中国の台頭を巡る共通の懸念もある」と指摘する。アメリカが「中国パワー」に対抗するためには、インドとの連携が不可欠だ。また、アメリカにとって、インド人技術者も年々、重要性が拡大しているという。「彼らは日々の後方支援の業務から、航空機や人工知能などの高度な設計に至るまで、ありとあらゆる重要なサービスをアメリカに提供している」からだ。社説は、アメリカの大学の留学生数の内訳を見ると、インドからの学生の数が中国からの学生の数を上回っているとも指摘する。

 インドは、アメリカにとって、「英語」と「民主主義システム」という二つの共通の絆を有する「自然な同盟国」だと言われてきたという。だが、アメリカは今、インドを「同盟国」ではなく、「主要防衛パートナー」と呼ぶ。これは、戦略的な自主権を維持することを重視するインドに配慮した対応であるとともに、「同盟より連携の時代」とするインド紙の主張にも呼応する内容だと言える。

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 インドは、ウクライナ問題を巡り中立的な立場を取り続けている。ロシアと歴史的な関係を有し、現在も武器やエネルギーなどの輸入をロシアに依存しているインドの動向は、常に注目されてきた。そして、まるで民間軍事会社ワグネルの反乱などでロシア内部の足並みの乱れが露呈するのを見届けかのようなタイミングでアメリカに接近を図っている。まさに、したたかな「スイングステート」のように見えてくる。

(原文)

インド:

https://timesofindia.indiatimes.com/blogs/toi-editorials/friends-and-benefits/

シンガポール:

https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/us-india-tighten-defence-ties

 

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