アジアから見た日本の防衛政策の転換
防衛費増額などの閣議決定は、シンガポールでどう報じられたのか
- 2023/1/18
日本政府は12月16日、今後5年間で防衛費を1.6倍の43兆円余りに増額することや、敵基地攻撃能力の保有などを含む「安保関連3文書」を閣議決定した。今回の防衛の基本方針の改定は、日本の安全保障政策にとって大きな転換点となる。というのも、日本は第二次世界大戦後、戦争放棄をうたった「平和憲法」を制定し、専守防衛に徹すると宣言してきたからだ。この転換の背景には、ロシアによるウクライナ侵攻や、台湾有事、相次ぐ北朝鮮によるミサイル発射など、安全保障上の脅威が高まったことがある。シンガポールの英字紙ストレーツタイムズは12月19日、これについて社説を掲載した。
日本はなぜ戦後の平和主義を見直したのか?
「日本の防衛政策は平和を育むものでなくてはならない」というのが、社説の見出しだ。社説は、「ロシアのウクライナ侵攻に伴う小麦や原油の価格急騰がひと段落した今、もう一つの重大な影響が、遠くアジアで波紋を呼んでいる。端を発するのは、日本だ」と述べ、日本の防衛政策の転換が、日本だけでなくアジア全体に動揺を与えたことを示唆した。さらに、「日本は欧州で戦争が起きれば、アジアでも同様のことが起き得ると考えた」として、岸田首相が6月にスペインで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で「ウクライナの状況は明日の東アジアかもしれない」と発言したことに触れ、防衛費の増額について説明。「これにより日本は、米国と中国に次ぐ世界第3位の防衛支出国となる」と指摘した。
さらに社説は、「防衛費の増大よりも重要なこと」として、日本が敵基地攻撃能力の保有を認めたことを挙げた。
「日本は過去75年間にわたって自国の経済成長に注力し続け、軍事的には米国の傘の下にいた。しかし、今、自身の憲法に記載された戦後平和主義のスタンスを見直そうとしている。この転換の背景には、現在、日本をとりまく安全保障環境が、第二次世界大戦後、最も厳しく複雑になった、という日本の見方がある」
社説は、日本が注目するのはウクライナ問題にとどまらないと強調する。日本は、中国の急速な軍備近代化や、北朝鮮の核開発とミサイル開発に対する意欲について、「これまでにないほど重大な安全保障上の課題」だと考え、防衛政策の転換に踏み切ったとの見方を示す。さらに、国民の心境の変化にも言及。「日本国民はこれまで、軍国主義に戻るのではと懸念されるような政策転換を受け入れることはなかった」としたうえで、「安全保障上の変化によって、国民にも姿勢を変えるよう促した」と指摘し、読売新聞が実施した世論調査を引用。回答者の51%が、防衛費増大に賛成している、と報じた。
軍事的緊張ではなく、平和をもたらす国であれ
社説は、「国家がその主権を守るためには、逆風に対する弾力性や柔軟性が必要だ」として、日本の防衛政策の転換に一定の理解を示した。その一方で、「日本はアジア太平洋の平和と発展に貢献する立場にいなければならない」と指摘し、軍事的緊張の高まりを警戒。さらに、日本と中国の軍事力の差についても言及し、次のように述べた。
「日本で新たな防衛政策が施行されたとしても、2つの国の軍事力は同等ではない。同時に、日本と中国には強い経済的なつながりもある。軍事力の差や経済的な権益を考えれば、日本は引き続き中国との平和関係を模索していくべきだろう」
朝日新聞によれば、中国は1992年からの30年間で国防予算を39倍にまで増やしており、2022年度は公表ベースで約24兆6577億円だという。一方、日本の2022年度の防衛費は、約5兆円。中国は日本の5倍近くの国防予算で軍備を進めていることになる。
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「アジア・太平洋地域の安定と発展を、中国ではなく日本がリードしてほしい」という期待は、東南アジア諸国に根強い。しかしそれは、覇者としての支配ではなく、調和と平和を維持する役回りである。日本の防衛政策の転換については、日本国民だけでなく、アジア諸国からの理解もまた、必要なのではないだろうか。
(原文)
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/japan-s-new-defence-policy-must-foster-peace