感染者5万人超のシンガポールで行動制限の緩和始まる
地元英字紙が「責任ある行動」を呼び掛け
- 2020/9/4
東南アジア諸国の中でも新型コロナウイルスの感染拡大が深刻なシンガポール。8月27日までに約5万7,000人の感染者が確認されている。しかし、新規感染者数がようやく抑制され始めたことから、シンガポール政府は行動規制の緩和に着手した。8月25日付のシンガポールの英字紙ストレーツタイムズは、社説でこの問題をとりあげた。
感染予防か経済か
まず社説は、新型コロナウイルスについて「記憶にある中で最悪の感染症が広がり始めて8カ月が過ぎた」と、表現する。
そして、人の移動が止まり、外食も禁じられたことなど、さまざまな分野にわたる行動制限が感染拡大を防ぐために適切な措置であった一方、国の経済にとっては大きな打撃を与えた、と指摘した。
「失われた多くの仕事は二度と戻らないかもしれない。学生たちは、まるまる一年を失う恐れがある。裕福な国でさえ、その蓄えには限度があり、新型コロナ対策にもつぎ込まなくてはならない。さらに感染が長期間に及ぶことになり、多くの人々やビジネスが、政府の支援に頼らざるを得ない状況だ」
感染予防か、経済か。今、あらゆる国がこの問題に直面しているが、感染拡大が抑制傾向にある国々では、経済活動や人の移動の制限を一部解除する動きが始まっている。社説は特に、大きな痛手を受けた航空業界や旅行業界について、シンガポールが決断した事業再開の動きをとりあげる。
シンガポールは、シンガポール航空乗客のチャンギ国際空港のトランジット利用を一部認めてきたが、アフターコロナの「旅行バブル」を見越して、その制限範囲をさらに緩和した。また、9月1日からは新型コロナウイルスの低リスク国であるブルネイ、ニュージーランドとの往来を緩和する。ビクトリア州を除くオーストラリア、マカオ、中国、台湾、ベトナム、マレーシアからの入国者については、隔離期間を14日から7日間の短縮、隔離場所も指定施設ではなく自宅にすることを認めるなどの、制限緩和策を打ち出した。
マレーシアとの渡航再開
一連の「行動制限の緩和」の中で、社説が「最も重要なこと」として指摘するのが、隣国マレーシアとの往来だ。社説によれば、シンガポールとマレーシア両政府は、越境通勤など8月17日から相互往来を再開することに合意した。両国間の一日の往来者は30万人という。両国は、公務やビジネス上、不可欠な相互出張を認める「相互グリーン・レーン」と、越境通勤者ら定期的な往来を認める「定期通勤協定」を設定。その条件に該当する人たちに、申請を義務付けたうえで渡航を可能にした。
社会・経済を含むあらゆる分野で密接な関係にある両国も、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて3月半ばから国境封鎖を余儀なくされていた。条件付きとはいえ、渡航の再開は両国にとってさぞ待ちかねていたことだろう。
しかし社説は、「シンガポールと同様に段階的に行動制限の解除を開始している国は多いが、活動再開を急げば代償は大きい」と、警鐘を鳴らした上で、制限が「逆戻り」して厳しくなった例として以下の例を挙げる。
「英国は、スペイン、フランス、マルタ、オランダからの旅行者に対する隔離を強化した。フィンランドは、ほとんどの欧州連合(EU)諸国を制限緩和の対象からはずした。また、オーストラリアは、ビクトリア州で隔離措置に従わなかった帰国者のために感染が広がったことを受け、現在、最も厳しい制限を設けている」
その上で社説は、慎重に扉を開き始めた世界に対して次のように説く。「これらの事例から得られる教訓は明らかだ。もし、行動制限を緩和し、旅行も認めるなら、旅行者もまた責任のある行動をしなくてはならない」
息苦しいことではあるが、特効薬もワクチンもまだ存在しないウイルスと戦うには、感染を防ぐ責任ある行動しかない。
(原文: https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/opening-up-travel-one-step-at-a-time-0)