世界的な物価高騰、人々の暮らしに打撃深く
国際情勢の暗い影をアジアの社説はどう報じているか
- 2022/6/18
日本も含む世界各地で、生活必需品の物価高騰が続く。各国それぞれに事情はあるものの、共通するのは、新型コロナによる世界的な流通機能の低下、そして長引くロシアによるウクライナ侵攻だ。石油や天然ガスの価格が上がり、ロシアやウクライナを産地とする穀物が品薄となるなど、人々の暮らしに濃い影を落としている。
燃料不足のために亡くなったスリランカの赤ちゃん
スリランカの英字紙デイリーニューズは、5月24日付の社説で、実際に起きた悲劇を紹介した。生後2日の新生児が急病に陥り、父親が病院へ行こうとした。しかし、近くにいた三輪自動車はすべて、「燃料がない」ために動かすことができなかったという。ようやく見つけた車で病院に駆け付けたものの、赤ちゃんは命を落とした。医師は「1時間早く来てくれれば助けられた」と語ったという。
社説は、「世界中に同じような悲しい出来事がいくつあるのか」と憤る。スリランカにおけるガソリンの高騰の原因は、ロシアのウクライナ侵攻による影響だけではない。そもそもスリランカは過去数十年で最悪の経済危機に陥っており、燃料だけでなく生活必需品などすべての物価が高騰し、人々を苦しめているのだ。
海外就労と観光業への注力を訴えるネパール
ネパールの英字紙カトマンドゥ・ポストも、5月18日付の社説で物価高騰への憤りを書いた。
「過去数カ月の間、コンスタントに上昇する物価は、中間所得者層、そして低所得者層の人々の暮らしを圧迫し続けている。ロシアとウクライナの戦争により急上昇したガソリン価格が、この一向に治まらないインフレの主要な要因だ」
同紙はさらに、欧米諸国がロシアに対する経済制裁に踏み切っていることについて、「その影響は欧米だけにとどまらず、はるかに広範囲に及ぶ」と、指摘する。
また同紙は、「ネパールが輸入に依存する国であるために国際情勢の影響を受けやすい」と指摘。その解決策として、「海外就労」と「観光業」にもっと力を入れ外貨を入手することを提案した。
ネパールの人々は、隣国インドをはじめ、世界各地で海外就労をしている。新型コロナの影響でその数は減ったが、コロナ禍が下火になった今、再び海外へ出稼ぎに行くチャンスは増えるだろう。社説は「こうした海外就労者からの送金が祖国の経済を支える一つの柱になるのだから、促進すべきだ」と主張する。また、ネパールの主要産業の一つである観光業にも再び光が差す兆しが見えている。同紙は、国際的な危機を「自力」で乗り切る重要さを訴えている。
食料不足に危機感募らせるバングラデシュ
こうした事態を招いた世界の政治指導者に怒りをぶつけるのは、バングラデシュの英字紙デイリースターだ。5月21日付の社説では、「このまま事態が悪化すれば、世界の食料不足が今後数年続く」という国連の見立てを引用し、「世界の政治指導者たちは、戦争を終えることでしか事態は解決しないと分かっているはずだ」と、主張する。
社説によると、ロシアとウクライナは世界の小麦生産量の約30%を生産しているという。しかし、今年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降、ウクライナは毎月450万トンの穀物類を輸出できずにいるという。これは世界の小麦の12%、トウモロコシの15%、そしてひまわり油の半分に相当する。
「私たちは、世界の指導者たちに対して、一刻も早く、この長引く食料危機に立ち向かう策を見出してほしい」と、社説は訴えている。
(原文)
スリランカ:http://www.dailynews.lk/2022/05/25/editorial/279448/fuel-crisis-and-tragedies
ネパール:https://kathmandupost.com/editorial/2022/05/18/crunching-effects-of-inflation
バングラデシュ:https://www.thedailystar.net/views/editorial/news/nations-must-act-together-end-food-crisis-3027976