東南アジアの国々が抱える食料問題
フィリピンとバングラデシュの調査が示す栄養危機

  • 2023/7/3

 人類はみな、食事をする。しかしその当然の営みには、さまざまな問題がつきまとう。現在、あらゆる国が食料や食品について何らかの課題を抱えている。その内容は、飢餓から過食、栄養の偏りによる健康被害まで、多種多様だ。

(c) Hugo Heimendinger/pexels

飢餓状態の低所得者を救え
 フィリピンの英字紙インクワイアラーは、5月25日付の社説で、フィリピン国内の飢餓の問題をとり上げた。
 社説が引用したフィリピンの世論調査結果によると、国内で飢餓状態にある人、つまり「空腹で食べるものがない」人たちは、2023年3月の時点で9.8%だった。これは2022年12月時点の11.8%からは改善したものの、新型コロナ感染拡大前の8.8%には戻っていない。社説は「もともとあった飢餓という課題が、新型コロナでさらに悪化し、今もまだ回復途上にある」と、説明する。
 この現状に対し、フィリピン政府は対策を進めている。例えばアジア開発銀行の資金援助によって、7月から「国内の最も貧しい人々が、栄養価が高く、おいしくて手頃な価格の食べ物を手に入れるためのフードスタンプ(食料費補助)プログラム」を開始するという。
 具体的には、7月から12月までのプログラムの試験運用期間中、まず3,000世帯の貧困世帯に3,000ペソ(約7,500円)が支給されるという。受け取った世帯は、政府が認定した店で基礎的な食料品を購入することができる。対象となるのは、旧紛争地域や都市部の貧困コミュニティー、被災地などで暮らす住民たちだ。試験期間が終わった後は、必要な調整の後、2024年第一四半期に正式にプログラムがスタートする。最初は30万世帯が対象だが、徐々に範囲を拡大し、2025年には100万世帯に支援が行き渡る予定だという。
 社説は、「飢餓に苦しむ国民を置き去りにしたまま、持続可能な経済成長を語ることはできない」としたうえで。「その一方で、貧困の根本原因である日用品価格の高騰や雇用対策の不足、食料安全保障のための農業支援や貯蔵施設の必要性などにも、同じように注意を払わなければならない」と述べ、多面的な取り組みが必要だと指摘している。

乳幼児期の不健康な食事が国家の発展を妨げる

 バングラデシュの英字紙デイリースターは、5月12日付の紙面で「子どもたちに健康的な食事を」と題した社説を掲載した。
 社説はまず、国立人口調査研修所が発表した『バングラデシュ人口・健康調査2022」の結果を引用し、「50%もの乳幼児が、砂糖を多く含む飲料や、脂肪・ナトリウム含有量の高いチップス、インスタントラーメン、ハンバーガーなどを食べている」と指摘した。世界保健機関(WHO)や国連児童基金(ユニセフ)のガイドラインに照らし合わせると「不健康」とみなされる食べ物を摂取している子どもたちは、実に230万人以上に上るという。
 さらに社説は、「こうした不健康な食事をしているのは、子どもたちに限らず、多くの大人も同様だ」と指摘し、「意識の低さやライフスタイルの変化、政策や規制の欠如、栄養価の高い食品が高価であること」など、多岐にわたる原因を挙げる。
 しかし、原因がどれだけ複合的で解決困難であっても、乳幼児が不健康な食事をしている状況に対して無策であるわけにはいかない。社説は、「子どもたちの人生にとって、最初の3年間は認知と身体の発達にとって最も重要な時期」であるため、バランスのとれた食事が欠かせない、と強調する。社説は「乳幼児期の不健康な食習慣は、いずれ高血圧や心臓疾患、肥満のリスクを高め、糖尿病を引き起こす恐れもある。病気の大人が増えれば、公的医療が圧迫され、国の発展さえも妨げられるのだ」と懸念を示し、速やかな対策を求めている。

(原文)
フィリピン:https://opinion.inquirer.net/163393/ending-hunger-as-lasting-legacy
バングラデシュ:https://www.thedailystar.net/opinion/editorial/news/ensure-healthy-food-children-3317766

 

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