「新型コロナ、活動制限解除を政治利用するな」
タイの社説が命と安全を危険にさらした「賭け」を批判

  • 2021/10/2

 新型コロナの感染拡大が減少傾向にあるタイで、10月1日から入国制限が緩和される。ワクチン接種などを条件に隔離期間が短縮されるほか、11月中には主要観光地で隔離免除にまで踏み切る方針だ。9月20日付けのタイの英字紙バンコク・ポストは、社説でこの話題を採り上げた。

タイの英字紙は、制限解除を政治的に利用するタイ政府の方針に反発している(c) Alexandr Podvalny / Pexels

急ピッチで進められた外国人の受け入れ再開

 現地からの報道によると、タイ政府は新型コロナ対策として入国者に義務付けている隔離について、ワクチン接種が終わっていることなどを条件に、現在の14日間から7日間に短縮する。首都バンコクや北部チェンマイなどの主要な観光地については、11月中に隔離を全面免除する方針だという。
 タイは今年7月から、海浜リゾート地のプーケットで、「サンドボックス」と呼ばれる隔離免除措置を開始した。タイの主要産業である観光セクターの再生につなげる実験的な措置だったが、これによりプーケットでは新型コロナ感染者が増えるという事態が起きた。しかし、タイ政府は「観光客から住民への感染例はない」として、隔離免除措置を継続している。タイ全体では、8月半ばに1日2万人を超える新規感染者が確認されていたピーク時から減少したものの、現在も1日あたりの新規感染者が1万2000人を超える状態が続いている。
 社説は、こうした状況を背景に外国人観光客などの受け入れについてタイ国内でさまざまな意見が出ていると伝えている。タイ政府は、プラユット首相が6月16日に示した「120日以内に再開」という宣言にこだわり、10月の早い時期に受け入れを再開し、隔離を免除することにこだわった。これを受け、観光スポーツ省は、「バンコク都のワクチン接種率が7割程度に達する10月15日が適当」としていた。一方で、バンコク都は、「ワクチン接種率は10月22日まで7割に達しない」として、受け入れ再開日程の予測を避けていた。さらに、社説によれば、都知事は「バンコクの受け入れ再開を決定するのは私だ」と主張していたという。
 「政府が経済再生のために施策を実施することは悪いことではない。しかし、今はコロナ禍が収まっているとは到底言えない状況であり、政府は今後の新たな感染拡大の波に備えなければならない。主要都市の再開とは、単にワクチン接種を済ませた外国人を受け入れるだけにとどまらない。観光客を受け入れるために、ショッピングモールやパブ、バー、そのほかの娯楽施設や様々な活動を再開することも意味している。だからこそ、保健医療関係者は、少なくとも住民の70%以上が2回のワクチン接種を終えているという条件にこだわるのだ」。社説によれば、バンコクで2回のワクチン接種を終えている人は、9月半ば時点で37%に過ぎないという。

「シノバック」接種者へのブースターショット
 さらに社説は、中国製のワクチン「シノバック」の使用について疑問を呈する。ロイター通信によれば、タイでは7月にシノバックを2回接種した医療関係者約67万人のうち、618人が新型コロナに感染。そのうち1人が死亡し、1人が重体であることが分かった。これを受け、タイ保健省はシノバック接種者に対し、3回目の接種(ブースターショット)を勧告している。社説はこの事態は「タイ政府の失敗」だと明言した上で、次のように指摘する。
 「政府はシノバック接種者に対して3回目の接種をするように勧告しているが、ブースターショットを受けたのは、9月半ば現在で19万人余り、対象者のわずか2.2%にとどまっている。つまり、もしバンコク都民の7割が接種を2回完了しても、それは集団免疫を獲得したということにはならないのだ。政府が外国人観光客の受け入れを急ぐのであれば、この問題を解決しなければならない。ビジネスの再開や人々の暮らしの正常化を実現することは、もちろん理想的だが、それが政治的な目的により急がれてはならない」
 新型コロナ対策では、さまざまな点で失策があったと非難されるプラユット政権。これをきっかけに、首相の辞任を求めるデモまで発生した。政権側は、経済再生の動きに踏み切ることで国民の支持を取り戻したい考えだが、命と安全を危険にさらしたままの「賭け」は、国民には受け入れられない。タイに限らず、経済や活動を再開する際には、国民が納得する多面的な対策を示すことが求められている。

 

(原文https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2184479/reopen-with-caution)

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