ウクライナ侵攻1年、勝利なき戦争の行方
「誰も戦争をやめようとしない」
- 2023/3/10
ロシアがウクライナに軍事侵攻を開始して1年が経った。ウクライナで日々、犠牲者数が積み上がっているというのに、国連での度重なる決議や、欧米諸国によるロシアへの経済制裁を経てもなお、国際社会は解決の糸口すら見出だせずにいる。
対話しないロシアとウクライナ 行き着く先は冷戦か
シンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズは2月27日付紙面で、「1年経っても和平は見えず」と題する社説を掲載した。
シンガポールは東南アジア諸国の中でも、ロシアに対して厳しい姿勢をとっている。社説はまず、「世界はウクライナと共にある」と明言。ウクライナの主権や領土の保全について「譲れない、というのが世界の共通認識」だと、ウクライナを擁護した。さらに2月23日、国連総会が緊急特別会合で、ロシアによる侵攻を非難する決議を圧倒的多数で採択したことに触れ、「決議は193カ国中、シンガポールを含む141カ国の賛成を得た。決議に拘束力はないが、ロシアに軍隊の撤退を求める明確なものであった」と評価した。しかし、と社説は続ける。「戦闘が始まってから1年、平和は現実のものとなっていない。ロシアもウクライナも、話し合おうとしていない」。
社説は戦況が膠着している理由を2つ挙げる。1つは、ウクライナが現在、国土の5分の4以上を支配下に置き、優位性が揺るいでいないこと。2つ目は、ロシアが軍事的には逆境にあっても、「欧米の経済制裁を乗り越えたかのように見える」ためだ。後者についてはさらに、「エネルギーの最大の買い手である中国とインドがロシア経済を支えている」と、言及する。
こうした状況下で社説が危惧するのは、プーチン大統領が米露の新しい戦略核兵器削減条約(START)の履行停止を発表したことだ。社説は、「ロシアと西側諸国と間に広がる距離を、緊急に縮める必要がある。プーチン氏による新STARTの履行停止は、世界を再び冷戦という暗い未来に追いやることになりかねない」と、指摘した。
和平のカギを握るのはインドか
一方、ロシアとの関係を保ちながら、西側諸国との距離感も維持するのが、インドだ。インドの英字メディア、タイムズオブインディアは2月23日付紙面で、「だれもが敗者だ。ウクライナ侵攻から1年、だれもが戦争の継続を語る。インドが和平交渉を始めるべきだ」とする社説を掲載した。
社説はまず、ウクライナ侵攻による経済への打撃について、こう指摘する。
「ロシアによる侵攻は、経済を破壊し、順調だった世界経済の回復を妨害した。影響力のある国々は、戦争を止めるためにもっと努力をすべきだ」
だが、関係者はみな、戦争を終わらせることに関心がない、と社説は非難する。
「バイデン大統領など西側諸国の指導者たちは、キエフに向かうと、ウクライナへの武器供与のことしか話さない。長い間、欧州で平和の大切さを訴えてきたスウェーデンやスイスでさえ、殺傷力のある武器の援助を優先し始めた」
また社説は、この戦争において「何が勝利なのかが分からない」と指摘する。関係するそれぞれの国の思惑は複雑で、単に「プーチンを倒す」「ロシア軍の全面撤退」といったことで一枚岩になっているわけではない、というのだ。中国がロシアを軍事支援するようなことになれば、さらなる悲劇が訪れるとも言い、「それは国際社会の集団的失敗だ」と断じた。
そのうえで社説は、インド政府が、ウクライナとロシア両国の交渉担当者をニューデリーに招き、停戦協議を行うべきだ、と主張した。
「すぐに結果が出るという期待はできないだろう。それでも対話を再開すること自体が、平和の実現に寄与することになる」
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インド紙が指摘する「だれも戦争を止めることを話していない」という指摘は、この戦争の現実を端的にとらえている。あまりにも多くの犠牲を上に成り立つ「勝利なき戦争」。すでにこれは、国際社会全体の敗北ではないのだろうか。
(原文)
シンガポール:
https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/one-year-on-no-peace-in-sight
インド: