髪型規制に揺れるタイの公立学校
デモ行進に嘆願書、抗議学生たちが求めるもの
- 2020/7/13
タイでは7月1日、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて休校していた学校が再開されたが、その途端に「長髪は校則違反だと注意され、無理やり髪を切られた」という投稿がSNS上で拡散されたという。7月6日のタイの英字紙バンコク・ポストの社説は、この問題をとりあげている。
徹底されない教育省の通達
社説は、「校則違反」とされた生徒ら10人が7月3日、教育省の幹部に対して教師たちの横暴に対策を講じるよう求める嘆願書を提出したと伝えている。さらにこのグループは、女子学生の髪を校則違反とされるスタイルにカットし、バンコク市内をデモ行進したという。
嘆願書によると、タイ国内の312の公立学校において、男子学生に軍隊風スタイルが強要されているという。教育省が5月に男子学生の長髪も認める通達を出しているにも関わらず、だ。
社説は、タイの生徒たちが髪型に関する校則との間で繰り広げてきた攻防の長い歴史を振り返る。1972年には、公立学校のすべての男子学生の髪の長さは一律5センチ以内、女子学生は首よりも長くなってはいけない、と定められていた。しかし、教育省は1975年、この規則を撤回し、長髪を許可する。「きちんとした髪型であれば、長髪も認める」という内容だった。
2013年には、教育省は改めてこの1975年の指示を遵守するように通達した上、今年初めにも「きちんとした髪型ならば長髪も許可する」ことを改めて確認した。
遅れる教育改革の背景
しかし、実際には、多くの学校がこの教育省の指示に従わず、48年前の古い決まりごとに固執した。社説は、「これこそが、教育省に多額の予算が分配されているにもかかわらず、タイで教育改革が進まない理由だ」と、嘆く。社説によると、タイの国家予算に占める教育費の割合は、世界で最も優れた教育システムを持つとされるフィンランドよりも高いという。にも関わらず、教育現場は依然として個人の自由を尊重しない古い校則を「しつけ」だと信じているのだ。
社説は、短髪を義務付けることがしつけだと信じる教師を「何の疑問も持たず、盲目的に権力に従う文化を強要している」と、厳しく批判する。
その上で、「もし、教育現場が社会の模範となる人材を育てたいと思っているなら、罪を犯さない限り、自由に自己表現する個人の権利を尊重すべきだ」「髪の長さと学校システムにおける行動の善悪との間に明確な関係性はない」と、断言する。
タイ社会では、特に教師は尊敬の対象であり、若者たちを教育するという重責を担っているという。しかし、「だからといって、好奇心旺盛な若者の心を縛り、個人の権利を尊重しなくていい理由にはならない」と、社説はいう。
「髪の長さ」をめぐるこの社説には、タイの教育改革の現状がよく映し出されている。生徒たちが求めているのは、単に髪型の自由だけではない。個人を尊重し、表現の自由を認める重要さを教育現場に真の意味で理解してほしい、ということだ。髪型の問題だけで終わらせるべきではない議論だ。
(原文:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/1946356/hairstyles-a-rights-issue)