プラユット首相の任期問題で憲法裁判断に揺れるタイ
2025年4月までという決定を地元英字紙はどう報じたか

  • 2022/11/14

 タイの憲法裁判所は9月30日、プラユット首相の任期を2025年までとする判断を下した。首相の任期をめぐっては、軍事クーデターにより実権を握った2014年8月からであり、首相の在任期間の上限として定められている8年をすでに終えた、とする主張があった。

 地元からの報道によれば、憲法裁判所はプラユット首相の任期について、クーデターが起きた後、現行憲法が施行された2017年4月6日から起算すると決定した。プラユット首相は2022年8月24日により職務を停止していたが、この判断によって職務に復帰。任期は2025年4月までとなった。

プラユット首相の公務が停止されたことを受け、首相代理として政府庁舎に登庁したプラウィット・ウォンスワン副首相(2022年8月30日、タイ・バンコクで撮影) (c) ロイター/アフロ

来たる2023年の総選挙を見据えて

 10月1日付のタイの英字紙バンコクポストは、「首相はまだ重大な岐路にいる」というタイトルで社説を掲載。今回の判決については、「多くの人が動揺している」と伝えている。

 「判決は多くの人を動揺させた。プラユット首相の支持者や与党は、2023年の総選挙で任期が残り2年しかない指導者に投票する人は少ないのではないか、との懸念を募らせている。だが、プラユット首相に代わる新しいリーダーがいないことも頭痛の種だ。その一方で、8月24日をもって首相の任期が終わったと主張していた反プラユット派は、抗議行動に際して別の理由を探さなければならなくなった」

 しかし社説は、判決が出たことによって国民が冷静さを取り戻す機会にもなった、とも指摘する。

 「昨日の判決は、再び路上に出て抗議し、暴力的な衝突が起きるリスクを負うのか、それとも(2023年半ばに予定されている総選挙まで)立法システムに猶予を与え、ふさわしい政治家を投票によって選ぶのか、という選択肢を人々に提示した」

 また、プラユット首相についても、「判決は任期の最後を飾る機会を創出した。総選挙までの数カ月間の行動次第で、首相が国民に今後、どう記憶されるかが決まるだろう」と述べた。

 そのうえで社説は、「プラユット首相は、汚職一掃や国民和解など、当初、国民と交わした公約の多くを達成していないままだ」と、厳しく批判する。「国民はプラユット首相に十分すぎる時間を与えた。首相が今、最後の数カ月で取り組まなければならないのは、インフレとタイ・バーツ安への対応策をはじめとする経済課題だ。また、来たる11月に予定されているAPECも滞りなく開催しなければならない」

 社説は最後にこう問いかける。

 「プラユット首相は、政治的な決断をしなければならない。勝てるかどうか分からない来年5月の総選挙に出馬し、政治的な分断をさらに強調するのか。それとも、無党派の首相として政権を8年間担った後で、『もう十分』と言って身を引いた同じ軍人出身のプレム元首相と同じ道を選ぶのか」。20

内閣改造の是非

 一方、同じバンコクポストの10月27日付の社説では、内閣改造の話題について論じている。

 社説は、空席になっている閣僚ポストをめぐる動きを解説しつつ、「こうした政治的なやりとりは、ほとんど国民のためにはなっていない」と、指摘する。

 「政治的なキャリアが最終章の一つ前の章に突入したプラユット首相は、かなり慎重に判断しなければはならない。内閣改造に踏み切るならば、適切な人材を、適切な理由で、適切なポストに就かせる必要がある。他方、首相は下院を解散することもできる。それはすなわち首相が国民に権力を返すことであり、国民自身が自分たちに奉仕する政治家を選ぶ声を上げるということである」

             *

 2014年のクーデターから、タイ政治は常に揺らいできたように思われる。国民の抗議行動はおさまらず、王室批判にまで及ぶこともあった。社説はプラユット首相に対して「国民に力を返せ」と言っているようにも見える。来年の総選挙へとつながるこれからの期間、首相の判断を注視したい。

 

(原文)

https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2404478/pm-still-at-crossroads

https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2423571/cabinet-rejig-serves-who-

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