米政府がミャンマー軍のロヒンギャ虐殺を認定
「広範囲かつ組織的に実施された非人道的な罪」

  • 2022/3/30

 米国のブリンケン国務長官は3月21日、ミャンマー国軍による少数派イスラム教徒ロヒンギャへの行為を「虐殺と人道に対する罪」と認定した。2016年と2017年にロヒンギャの人々に対して放火や集団強姦などの行為が、「広範囲かつ組織的に実施された」としている。
 米政府によるこの認定について、ミャンマーと国境を接するタイやバングラデシュなどアジア諸国の新聞が、社説で採り上げた。

ミャンマーへの強制送還に対して抗議の声を挙げるロヒンギャの人々(バングラデシュ・コックスバザールで2018年撮影)(Rohingyas protesting repatriation (Jafor Islam-VOA).jpg – Wikimedia Commons by Jafor Islam(VOA)Licensed under パブリック・ドメイン via ウィキメディア・コモンズ.

タイの英字紙は人身取引問題を指摘

 タイの英字紙バンコクポストは、3月23日の社説で「人身取引の問題が未解決だ」と指摘している。さらに同紙は、ミャンマー国軍による攻撃から逃れようとしたロヒンギャの人々が、人身取引の被害者になっているとも述べた上で、「恥ずかしいことではあるが、タイ国内でもこうしたロヒンギャの人々への虐待が明らかになっている。しかも、その容疑者には政府関係者が含まれている」と指摘する。

 これは、2015年に発覚したタイ南部でのロヒンギャ難民の人身売買事件を指している。当時の報道によると、マレーシア国境の南部ソンクラー県とサトゥン県で、ロヒンギャ難民の収容跡地とみられる場所が70カ所以上見つかり、数百人が保護された。また、30人以上の遺体が見つかり、隣接するマレーシアとの間で大規模な人身売買取引が行われていたことが明らかになった。この事件では、現地のパダンベサール市長(当時)や議員、警察官らが関与したとして逮捕された。

 しかし、事件の全容はいまだに明らかになっていない。バンコクポストの社説によれば、容疑者の中心人物の一人は、国内で命の危険を感じてオーストラリアに逃亡しているという。社説は、「事件から6年以上が経過している。いい加減、明らかにする時が来た」と述べる。これもまた、ロヒンギャの人々に対する非人道的な犯罪の一部である。

パキスタンとバングラデシュ「小さくとも歓迎すべき一歩」

 パキスタンの英字紙ドーンも、米政府のミャンマー軍によるロヒンギャ虐殺認定を歓迎した。3月28日の社説では「米政府が公式に虐殺認定をしたことは、国連が“世界で最も迫害されている人々”と表現した彼らへの正義のために、小さくとも歓迎すべき一歩だ」と述べている。

 そのうえで、「国軍は反政府運動を続ける市民への弾圧を今なお続けており、殺害された人数は1500人以上に上っている」と非難。「今度は国際社会が行動する番だ。虐殺の責任を負うべき人々に最も強い制裁を与え、残虐な罪には厳しい罰が与えられることを示さなければならない」と、主張した。

 一方、ミャンマーと国境を接し、多くのロヒンギャの人々が難民として流入している隣国バングラデシュでも、米政府の認定は歓迎された。3月22日のバングラデシュの英字紙デイリースターは、社説で「米政府による認定は遅いが、われわれは心から歓迎する。米政府は、ミャンマー国軍がロヒンギャの人々を虐殺し、非人道的な罪を犯したと認めたのだ」と、記した。さらに、「米政府の虐殺認定を受け、国際社会がロヒンギャ危機に持続的な解決策を見出せるよう、バングラデシュに支援をするべきである」とも訴え、難民の受け入れに多大な負担を強いられていることを主張した。

 米政府による認定は、バングラデシュと米国が「パートナーシップ対話」を実施している際に発表された。この対話の席上、米国はバングラデシュに対して、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐり、ロシアの行動に強く反対するスタンスをとるように求めたという。これについて社説は、「ロシアによる侵攻にはもちろん反対する。しかし、ウクライナ危機には、NATOの勢力拡大に警告したロシアの懸念を西側諸国が軽視した、という側面があることを忘れてはならない。西側諸国はこの事実をもっと真剣にとらえるべきだったのではないか」との見方を示し、ウクライナ危機については必ずしも西側諸国の見解と一致しないとの立場を示した。

ウクライナ問題の影に埋もれさせないために

 なお、バンコクポスト紙は、ウクライナ危機一色に染まっている報道に対して疑問を呈している。3月6日の社説では、ロシアの攻撃で命の危険にさらされたウクライナの人々や、その惨状に深く心を寄せながらも「連日報道されるウクライナ問題の影に、われわれの隣国で起きている虐殺行為があることを忘れてはならない。ミャンマーで国軍が実権を握ってから1年余りが過ぎた今、国軍への抵抗はゲリラ戦の様相を呈している。国連によれば、ミャンマー国軍の行動は、30万人余りのミャンマー人を国外に追い出し、数百人以上の市民を逮捕し、暴力をふるい、拷問をし、殺害をした。そして国連の予測によると、2500万人の人がまもなく貧困に陥るとされる」

 バンコクポストの社説は、「メディアは、たとえ主流であろうとそうでなかろうと、目と耳を地面につけ、ミャンマーの人々に起きている惨状が埋もれてしまわないようにしなければならない」と、強調した。

 地球上では、毎日どこかで紛争が起き、理不尽な暴力に命を落とす人たちがいる。私たち一人一人が、「目と耳を地面につけて」、その悲鳴を聞こうする姿勢を忘れてはならない。 

 

(原文)

タイ https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2283614/trafficking-case-in-limbo

タイ https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2274547/myanmars-plight-still-a-global-issue

パキスタン https://www.dawn.com/news/1682179/rohingya-genocide

バングラデシュ https://www.thedailystar.net/views/editorial/news/us-finally-recognises-rohingya-genocide-2988086

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