「高齢者への手当支給は現状維持を」
タイの社説が少子高齢化と財政問題に危機感
- 2021/10/26
タイで、高齢者への福祉手当を貧困層のみに限定する案が浮上している。高齢化が進むタイ社会の財政負担増について、9月29日付のタイの英字紙バンコク・ポストが社説で採り上げた。
より良い福祉に逆行
社説によると、タイ政府の関係省庁は現在、高齢者向けの老齢福祉手当の支給方法を収入に応じて制限する方向で話し合っているという。タイでは、年金制度の対象者について、60歳以上70歳未満は月額600バーツ(約2050円)、70歳以上80歳未満は月額700バーツ(約2400円)、80歳以上90歳未満は月額800バーツ(約2730円)、90歳以上は月額1000バーツ(約3400円)として、老齢福祉手当として支給している。一人あたりの金額としては決して大きくないが、急速に高齢化が進むタイの財政にとっては大きな負担になっているという。
こうした状況を踏まえ、高齢社会に向かうタイの財政負担を大幅に削減する目的で老齢福祉手当の見直しが検討されている。タイでは、総人口に占める60歳以上の割合は20%を超えている。しかし、この見直しはすでに受給している人たちには適用されないという。
社説はこの見直し案を「より良い福祉システムに逆行するもの」として、反対している。
「政府予算のうち、高齢者手当に支給されている額は1100万人分、年間1000億バーツに上り、確かに財政負担は大きい。しかし、公務員の年金に当たる予算は4000億バーツ、つまりその4倍に相当する。さらに重要なのは、公務員や国営企業従業員を対象とする政府年金基金制度と、民間企業従業員らを対象とする社会保障制度、そのほかの人々を対象とする国民医療保険制度には、それぞれ違いが生じているということだ。政府年金基金の対象者一人あたりのコストは、国民医療保険制度の対象者のそれよりも、ずっと高い」
重大な財政課題
社説はこのように指摘したうえで、「政府はこのギャップを埋める方法を見出し、タイの高齢者の健康と生活を平等に守らなければならない。政府は、この国の福祉を強化し、国民の基本的な権利を守る義務があり、今回の老齢福祉手当の見直しは、これと逆行するものだ」と、批判する。
タイは、アジアの新興国の中でも、特に少子高齢化のスピードが速いと言われる。タイの人口に占める65歳以上の割合は約12.96%(2020年)で、東南アジアではシンガポールの13.35%に次いで高い値となっている。高齢化に加え、女性の教育水準の向上による社会進出が進み、少子化も急速に進んだ。タイの合計特殊出生率は1.5と、日本の1.36に近い数値となっている。こうした中、高齢者の福祉予算や年金が、極めて重大な財政課題として浮上しているのだ。
「世界の成長センター」といわれた東南アジア諸国でも、シンガポールやタイを筆頭に、少子高齢社会への歩みがすでに始まっている。それはすなわち労働力の減少にもつながり、やがては世界中で「働き手」の争奪戦が繰り広げられることを予測させる。人口問題は、新興国をも巻き込んだ新たな局面に入っていると言える。
(原文https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2189151/keep-elderly-payment-as-is)