「破産」を宣言したスリランカ
地元とネパールの社説は混乱をどう報じたか
- 2022/7/29
深刻な経済危機に陥り、7月5日に「破産」を宣言したスリランカは、今も混乱が続いている。26年に及ぶ内戦からの復興の途上にあった国は、経済政策のさまざまな側面での失敗や政治腐敗から、再び混とんとした状態に戻ってしまった。
生きる権利を脅かされる高齢者
7月5日にスリランカでウィクラマシンハ首相が破産を宣言した後、デモ隊がラジャパクサ大統領(当時)の公邸になだれ込み、暴徒化した様子は、テレビなどでも繰り返し報道された。ラジャパクサ氏は7月半ばにはスリランカを離れ、モルディブ経由でシンガポールへ渡り、7月14日に辞意を表明。その後、スリランカに帰国するという情報もあったが、7月末現在、動向は判明していない。
一方、スリランカ国内では7月21日、ウィクラマシンハ首相が大統領に就任。新首相には、ラジャパクサ一族に近いと言われるグナワルダナ氏が就いた。事態の収拾が図られるのか、注目されている。
スリランカの英字紙、デイリーニューズは、7月25日付の社説で、ウィクラマシンハ氏の大統領就任をはじめ、収束に向けた動きが出ていることについて、一定の安心感を示した。とはいえ、それは「無秩序状態よりはマシだ」という程度のもので、国家の行く末には深い懸念を示している。
社説は、「暴徒化したデモ隊は国民の一部であり、多くの人々は家から外に出ることもできず、物価高で食料や燃料といった生活必需品の入手にも苦労しているのが実態だ」との見方を示した上で、「スリランカは、南アジアの中で最も高齢化が進んでいる。2017年の調査では、人口の14%が60歳以上の層であり、2037年には22%に上昇すると予測されている」と、指摘する。
さらに、「高齢者の多くが貧しく、一連の非常事態下で生きる権利さえ脅かされている」と危機感をあらわにし、こう続ける。
「多くの人々は、路上に出て抗議運動をすることもできない上、暴徒化したデモ隊が道路をふさいでいるため、病院や買い物にも行けないし、親戚を訪ねることもできない。さらに、ストライキが起きれば、公共交通機関も使えないのだ」
その上で社説は、「こうした“普通の人々”が今、最も必要としているのは、安全と自由だ」と訴え、「今、スリランカで起きている非常事態の原因は、経済政策の失敗にあり、政府を崩壊させることが本来の目的ではない」と、強調する。
「ごく一般の国民の心は政府や治安部隊とともにあり、秩序と安心を願っている」
国民に支持されない政権の末路
同じ南アジアに位置するネパールでも、英字紙カトマンドゥポストが7月14日付の社説でスリランカ問題を採り上げた「火中にあるスリランカ」と題し、国際社会による適切な支援を訴えている。
社説は、スリランカの経済破綻の原因について、同国の経済を支えていた海外就労者からの送金や、GDPの12%を占める観光業がコロナ禍で深刻な打撃を受けたことを挙げた。さらに、「ラジャパクサ政権が有機農業を広めるために国内で化学肥料の使用を一斉に禁じたことも、国民の経済活動に大きな影響を及ぼした」と、指摘する。
また、財務省関係者の発言として、「スリランカは1カ月あたり60億ドル(約7973億4000万円)の予算が必要であるにも関わらず、現状は2500万ドル(約33億2220万円)しかない」という絶望的な状況を紹介。「スリランカは、深刻な人道危機に陥るだろう」との見方を示す。
さらに社説は、「世界の政治指導者たちは、国民に支持されない政権は人々が “もう十分だ” と愛想を尽かした時に崩れ去るということをスリランカの状況から学習すべきだ」と、主張する。さらに、南アジア地域協力連合(SAARC)がまったく機能していないことにも触れ、「国際社会がもっと深刻にスリランカ危機によるリスクを認識し、適切な支援をすべきだ」と、訴えている。
(原文)
ネパール:
https://kathmandupost.com/editorial/2022/07/14/lanka-on-fire
スリランカ:
http://www.dailynews.lk/2022/07/25/editorial/283655/law-and-order-priority