新型コロナ 逆風に立ち向かうシンガポール
世界的危機の中で求められる優れた指導者

  • 2020/7/1

 新型コロナウイルス感染の収束が見通せないまま、世界のさまざまな国で経済活動が再開されている。6月27日付のシンガポールの英字紙ストレーツ・タイムズは、社説でこの問題をとりあげた。

シンガポール政府は「未曾有の危機を乗り越えよう」と国民に繰り返しメッセージを出している(c) Kin Pastor / Pexels

未曾有の不景気

 新型コロナウイルス感染が今も広がり続ける状況について、社説は世界の大国の現状を例に挙げて説明する。「世界の感染者は累計1,000万人に達した。1日当たりの感染者数が最も多いのは米国で、6月24日の1日に4万1,000人の新規感染者が確認された。同国内のこれまでの感染者数は、感染が確認されている人数の10倍に相当する2,000万人に上るとの見方もある。またインドでは、6月27日の24時間で感染者が1万7000人以上増加し、累計感染者数が50万人を超えた。都市封鎖の解除が始まった欧州諸国も、感染者は増えている」

 先の見えない不確かさの中で、社説は危機感を募らせる。「この危機によって、世界経済が揺らいでいる。95%以上の国で一人当たり国民所得の成長率がマイナスに転じるとの予測がある上、貿易量の減少によって世界経済が4.9%減退するとも言われている。その影響を最も強く受けるのが米国や欧州諸国、そしてほかの先進工業国であり、成長率は約8%落ち込むと見られている。シンガポールも、成長率はマイナス4%からマイナス7%となる見込みで、史上最悪の不景気となるだろう」

 実際、これまでにもシンガポールでは「未曾有の不景気が予測される」とのメッセージが繰り返し出されており、国家的な危機に備えるよう国民一人一人に求めている。

不透明なアフターコロナのシナリオ

 また、社説は国際社会の現状について、「新型コロナウイルスによる危機を受け、世界で最も重要な二つの大国の対立が深まった。米国と中国の二国間関係は、今後、悪化の一途をたどる可能性が大きい。11月に予定されている米大統領選の争点にもなるだろう」との見方を示す。

 その上で社説は、2001年の9・11世界同時多発テロや、2008年から2009年にかけて起きた世界同時不況の経験と比較し、このように指摘する。「各国が独自路線で動く傾向にある時には、国連や世界保健機関(WHO)、G7やG20などの組織は力を発揮しにくい。これまでとは違い、今回の危機は、世界各地でポピュリズムやナショナリズム、保護主義が台頭している中で起きている。それだけアフターコロナのシナリオが不透明になっており、非常に危険だ」

 「新型コロナウイルスの感染拡大が収束する道筋が見えない上、世界の超大国が罵り合うように対立し、国際協調よりもナショナリズムや保護主義が優勢で調和がとれない今日の国際社会にとって必要なのは、国を正しい方向へと導くことができる適切な指導力だ」――と、社説は強調する。実際、悲観的な予測ばかりが一人歩きしがちな中、来年には経済が回復するとの見方を示す国際機関もある。「コロナ以前」の状況まで一気に戻る勢いはないものの、少しずつ回復していく、という見通しだ。社説も「適切な指導力があれば、今回の危機がきっかけとなって、今後、さまざまな社会的課題を乗り越え、持続可能、かつ、しなやかで耐久性のある社会を構築していくことができる」と説く。

 グローバリズムの中で経済成長を遂げたシンガポール。多民族国家である上、移民労働者を多く抱えている同国にとって、新型コロナウイルスは、あらゆる側面で「逆風」であり、建国の基礎自体が試練にさらされていると言っても過言ではない。そんな小さな都市国家が、今回の危機をどう乗り越え、どのような国へと変化を遂げるのか。世界が注目している。

 

(原文https://www.straitstimes.com/opinion/st-editorial/need-for-leaders-in-time-of-global-crisis)

 

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