タイのシーフード産業で横行する搾取の実態
監禁、暴力、そして賃金未払いに苦しむ「海の奴隷」たち

  • 2024/2/8

鍵をかけて軟禁状態に

 翌日も、同じチョンブリー県のチョン・サマエサン村にある漁港付近を訪ねた。ここでは、10年ほど前まで「海の奴隷」の問題が深刻で、労働者たちが逃げないようにブローカーが部屋に鍵をかけて閉じ込めたりすることも横行していたが、LPNの精力的な保護活動によって状況がだいぶ改善しつつあるという。問題が明るみに出た2004年から2013年まで、年に2~3回はこの地域を訪れ、多い時には年間100人以上救出したというパティマさんに、当時の様子を聞いた。

奴隷問題が深刻だった頃のチョン・サマエサン村の様子について話すパティマさん (2024年1月16日、チョンブリー県で筆者撮影)

 パティマさんは、被害者のほとんどがミャンマーからの移民だったと振り返り、こう話す。「ブローカーは、漁から帰ってきた労働者たちをそのまま港から離れた場所に連れて行き、鍵をかけて閉じ込めていました。タイ語が話せず、お金も持っていない彼らは、とても逃げられる状況ではありませんでした」

 さらに、「彼らは漁船で働き始めるために必要な就労許可を得るという名目で最初に多額の借金を背負わされ、最低7カ月間は返済を名目に報酬は支払われないのが常でした」と指摘する。また、現在は状況が改善し、閉じ込められている労働者はいないとしたうえで、「劣悪な労働環境や低賃金の問題は、今も残っています」と、顔を曇らせる。

 そのうえでパティマさんは、「この問題はタイ国内にとどまりません。タイから水産物を多く輸入している日本をはじめ、さまざまな国々に関係する問題なのです。日本の政府も、消費者も、どうかこの問題を知って行動を起こしてください」と訴えた。

タイの水産業と無関係ではない日本

 最後にもう一人、面会した。訪ねたのは、タイ中部の古都アユタヤの街から遠くない病院だった。LPNが最近オープンした元漁船労働者たちのためのシェルターホームの近くだ。

 ミャンマー移民のサン・チョー・ライさんは、最近まで漁船に乗っていたが、過酷な労働に耐えかね、次第に幻聴が聞こえるようになったという。船を下りたいと船長に訴えても聞き入れてもらえなかったうえ、海に飛び降りようとすると、両手を後ろ手にされて5日間にわたり柱に縛りつけられたため。右腕が壊死して切断を余儀なくされた。身寄りがない彼をLPNがシェルターでしばらく保護していたが、その後、切断した腕の傷が感染したそうで、われわれが訪ねた時には再入院していた。病院代はLPNが負担している。彼は、「ミャンマーにもちろん帰りたい」としたうえで、「漁船主を相手取って裁判を起こし、補償金を得るためにタイに残っています」と話す。

船上で暴力を受けて右腕を失ったミャンマー移民のサン・チョー・ライさん (2024年1月16日、アユタヤ県で筆者撮影)

 事故ではなく、漁船で働いていただけで、懲罰により片腕を失うなど、決してあってはならない。魂が抜けてしまったようにうつろな彼の表情を目の当たりにして、移民労働者が強いられている非人間的な扱いの実態を改めて突きつけられた思いだった。

船の上で受けた暴力について話すサン・チョー・ライさん (2024年1月16日、アユタヤ県内の病院で筆者撮影)

 本稿を終える前に、改めて指摘したいことがある。タイの水産業と日本との関係は深いということだ。日本は世界で二番目に多くの水産物をタイから輸入しており、キャットフードにいたっては、約50%がタイ産だ。私たちが「安いから」という理由でタイ産のツナ缶やエビなどを購入する裏側で、彼のような誰かが犠牲を強いられているかもしれない。

 タイは2015年11月にIUU(違法・無報告・無規制)対策を強化する漁業法を制定し、2019年1月には国際労働機関(ILO)の漁業労働条約(第188号)も批准した。映画の撮影当時に比べれば状況は改善しているとはいえ、今回、私たちが出会った人々が経験したような虐待は、今も横行している。

 こうした実態を踏まえ、来たる2月20日に映画『ゴースト・フリート 知られざるシーフード産業の闇』の上映会の開催が決まった。WWFジャパンの招へいで来日するパティマさんも登壇する予定だ。この機会にぜひ改めてシーフード産業の闇を知っていただきたい。

詳しくは、以下をご覧ください:

 2月20日  「ゴースト・フリート」上映会トークイベント開催< 

 映画に登場するパティマさんも来日! 

 https://unitedpeople.jp/ghost/archives/16012 

 

 

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