いまだ達成されぬ東南アジアの民主主義
強権政治を許すフィリピン、エドサ革命の精神は忘れられたのか?

  • 2023/3/5

 2月25日、フィリピンは、「ピープルパワー革命」から37年を迎えた。20年以上も続いたマルコス独裁体制を倒して、コラソン・アキノ大統領を就任させた、民衆による革命だ。当時、マニラのエドサ通りなどで繰り広げられたマルコス政権に対する大規模な抗議行動は、コラソン・アキノ大統領のイメージカラーである黄色に彩られ、東南アジアの民主主義の歴史に鮮やかな記憶として刻まれている。

フィリピンのケソン市で、フィリピンの独裁者フェルディナンド・マルコスを20年の支配から追放した「ピープルパワー」革命の37周年を記念する集会で、フィリピン国旗を振るデモ隊。今年は、強権者の息子であるフィリピン大統領フェルディナンド・マルコスJr.の政権下で初めて実施された。(2023年2月25日撮影)(c) (AP/ アフロ)

独裁者の息子を大統領に選んだフィリピン国民

 フィリピンの英字紙デイリーインクワイアラーは2月25日、「エドサ革命記念日の皮肉」と題した社説を掲載した。社説は、「平和的な革命は、いまだ完成への途上にある」と述べ、37年前にめざした民主主義が今も達成されていないと主張した。

 「1986年2月の4日間、数百万のフィリピンの人々が路上に繰り出し、マルコス大統領による独裁政権を終わらせ、マルコス一家を大統領府から追い出した。しかし今年の記念日は皮肉だ。そのマルコス大統領の息子であるマルコス・ジュニア大統領のもとで行われる、初めての革命記念日だからだ」

 2022年にロドリゴ・ドゥテルテ大統領の後をついで、大統領に就任したマルコス・ジュニア氏は、皮肉にも、この革命で国外に追い出された側だ。「マルコス・ジュニア大統領は、この革命において、決して傍観者ではいられなかった。当時、彼が軍服を着て、大統領官邸で父親の支持者たちの前に立っていた姿は忘れられない。その翌日には、彼は(革命により)ハワイに亡命したのだ」

 しかし、「抑圧にノー」を突き付けたエドサ革命の輝かしい姿は、その後のフィリピン社会の苦闘の中で徐々に薄れていった、と社説は指摘する。事実、独裁者マルコス大統領の息子、マルコス・ジュニアは、2022年の大統領選挙で「大勝」した。国民が、その歴史を知りながらも彼を選んだことはまぎれもない事実だ。

 「1986年以降、私たちが毎年学んでいるように、平和的革命はいまだ現在進行形の課題である。この30年あまりの激動と挑戦の日々が教えてくれたのは、民主主義や、苦労して勝ち得た自由を守り抜く努力に、決して終わりはないということ。あの栄光の4日間の幸福感は、一部の人の中で徐々に薄れていった。人々はエドサ革命に疑問を持ち、軽んじるようにさえなったのだ」

 社説は言う。「エドサ革命の本質を忘れた時、歴史は我々に手痛い教訓を与える。例えば、『麻薬戦争』で6,000人以上を警察に殺害させた政権に、我々はどう耐えたのだろうか。あるいは、新型コロナ感染対策の基金が、汚職と無能さで無駄に失われることを許すような政権を、どのように耐えたのだろう」。しかし、エドサ革命の本質が完全に忘れられたわけではないようだ。社説によれば、2022年12月の世論調査では、62%のフィリピン人が「エドサ革命の精神は生きている」と答えたという。「エドサ革命の精神をどう生かすかは、市民や政府、つまり我々次第である」と、社説は結んでいる。

警察の拷問を防げ!法律の早期施行を求めるタイ紙

 民主主義と自由を守り続けることは、容易ではない。フィリピンの教訓は、他のどの国にも共通する。

 タイでは、拷問・強制失踪防止法について、政府が一部の法の施行を10月まで延期すると決定し、人権団体などから批判を受けている。タイの英字紙バンコクポストは2月25日付の社説で「拷問防止法の施行延期こそ、拷問的だ」と政府の判断を批判する記事を掲載した。

 社説などによれば、施行が延期されたのは、逮捕・拘置の段階で、取り調べの際の音声と映像を記録することを義務付けた条文。これは、警察による拷問や不法行為を防ぐことを目的としているが、警察側から「必要な機器がそろっていない」などの理由で、延期を求められたという。

 社説は、法律そのものが施行後に120日間の準備期間を与えているので、施行を延期する理由がない、と指摘する。「政府はだらだらと施行を先延ばしするのではなく、警察官たちに法を順守させ、人権擁護のための教育をすることで、国民に政府としての姿勢を示す必要がある」と、主張した。

 フィリピンもタイも、東南アジア諸国の中では経済成長著しい「民主国家」だ。しかし民主主義は、一度手にしたからといって、自動的に続いていくものではないのだと、この2つの社説は教えてくれる。民主主義とは、常に国民の手によって磨かれていなくてはならない。手にしたと思ったとたんに、崩れ落ちることもある。ミャンマーの現状が、何よりもそれを強く訴えかけている。日本においてさえ、民主主義は未完なのである。

 

(原文)

フィリピン:https://opinion.inquirer.net/161302/irony-of-edsa-commemoration

タイ:https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2514684/torture-delay-is-tortuous

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