タイで「不敬罪」改正を訴えた最大野党 新党結成で再び躍進か
「抑圧的な政権もいつかは必ず揺らぐ。進歩への希望は止められない」

  • 2024/9/11

 タイの政治が混迷を深めている。憲法裁判所が8月7日、最大野党の前進党に解党を命じた。8月中旬には、最大与党・タイ貢献党のセター氏がやはり憲法裁判所からの解任命令を受けて失職。後任には、同党党首でタクシン元首相の次女ペートンタン氏が就いた。

タイの政治にいま何が起きているのか
 解党命令を受けた前進党は、2023年5月の総選挙で第1党に躍進した新しい政党だ。王室に対する「不敬罪」を定めた法律を改正することを公約に掲げて若者の熱狂的な支持を集めたが、獲得議席は過半数に及ばず、連立による政権樹立を模索していた。ところが、連立のカギを握ったタイ貢献党が前進党と対立する軍部勢力と連立政権を樹立したため、前進党内閣への道は絶たれることとなった。
 今回、前進党は「不敬罪」の改正を選挙公約に掲げたことにより解党命令を受けた。さらに、カリスマ的な人気となった前進党のピタ元党首を含む党幹部11人も、10年間の政治活動の禁止を命じられた。しかし、前進党の党員たちは解党命令から2日後の8月9日、後継となる新党「人民党」を結成し、政治活動を続けていく方針を示した。

バンコクにある前進党(Move Forward Party )本部で、支持者に語りかけるピタ・リムジャラーンラット元党首。2024年8月7日撮影 (c) AP/アフロ

不屈の新党 対立政党は躍進を警戒
 タイの英字紙バンコクポストは、8月16日付の社説で「新党へのハードル」と題した社説を掲載し、人民党が直面する課題について指摘した。
 社説によると、国民は人民党の結成を「あたたかく受け入れている」という。「何万人もの政治意識の高い人々が党員として申請しており、8月15日の時点でその数は5万4,000人を超えた」と、社説は伝える。また、「資金調達も驚異的」で、短期間で目標の2倍以上となる2,520万バーツ(約1億700万円)に達したという。
 こうした状況を受け、対立する政治勢力は「動揺している」と、社説は分析する。事実、対立勢力は、新党の資金集めが合法的に行われているかどうか選挙管理委員会に調査を申し立てるなど、粗探しに余念がないという。
 社説は新党の動きそのものについては深く論じていないが、資金調達の合法性という点から、「国民の意識が高まったこの機会にさまざまな改正をすべきだ」と主張し、次のように訴える。「選挙管理委員会や議員たちは、政治資金に関する規制が適切に運用されるようにすべきだ。政党や民主主義を抑圧するのではなく、促進に役立つよう対応しなければならない」

憲法裁判所が無視した「不変の真理」
 一方、インドネシアの英字紙ジャカルタポストは、前進党の解党命令を深く嘆き、批判し、改革を求めるタイ国民の闘いに心を寄せる社説を8月9日付で掲載した。
 「2023年総選挙の正当な勝者である前進党を解体するという憲法裁判所の決定は、“進歩は止められない”という不変の真理をあからさまに無視するものだ」。社説は冒頭でこう述べ、今回の決定がタイの民主化に著しく反する動きだと非難した。
 そのうえで社説は2023年の総選挙を振り返り、「これまで傑出した前例がなかった前進党のパフォーマンスは、タイの民主主義が成熟しつつあることを示すものとなった。同時に、何十年もの間、王政の陰に隠れて権力をほしいままにしてきた軍部に対する国民の信頼が薄れつつあることを反映していた」と述べ、前進党の勝利の裏には軍部への不信があったと指摘した。
 さらに、「私たちはタイのすべての進歩的な政治家や活動家、人々に対して、顔を上げて闘い続けるよう呼びかける。タイの人々、そして東南アジアの仲間たちに対し、私たちは“恐怖や欠乏から解放され、安全な生活を送りたいという私たちの願いは、裁判所の判決によって決められるものではない”というピタ氏の言葉を伝えたい」と、熱く語りかけた。
 最後に社説は、タイの反民主主義的な動きをバングラデシュの政治的混乱と重ねてこう述べている。「抑圧的な政権も、いつかは必ず揺らぐ。進歩は止められない力なのだ」

(原文)
タイ:
https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2847882/hurdles-for-new-party

インドネシア:
https://www.thejakartapost.com/opinion/2024/08/09/ever-forward-thailand.html

 

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