米国の最高裁で「中絶の権利」が否決
望まれない妊娠や女性の権利と保守化の波
- 2022/7/25
アフリカ諸国にも広がる影響
こうした状況を踏まえ、前述のサラビア氏は「中絶を自由化しようとしている国は今後、米国からの援助がなくなることを怖れて二の足を踏むようになるだろう」との見方を示す。
少し古い事例になるが、共和党ブッシュ政権下の2003年、西アフリカのガーナで、米国のメキシコシティ政策を拒絶したガーナ・プランドペアレントフッド協会が米国際開発庁(USAID)から受けていた20万ドル(約2754万円)もの資金援助を失った。これにより同協会は、全職員の44%に当たる67人を一時帰休させることを強いられている。
こうした支援の中断によって影響を受けるのは、中絶とは直接関係のない避妊具の購入である場合も多く、「中絶減少を目標とするメキシコシティ政策が、逆に望まれない中絶の増加を招く皮肉な結果を呼ぶだけだ」との指摘もある。
話を現在に戻すと、東アフリカのマラウイでは、強姦や近親姦による望まれない妊娠や母体の危険に対して安全な中絶を提供する法案が審議されていたが、今回の米連邦最高裁判決を受けて撤回された。内戦で疲弊する「アフリカの角」こと東アフリカのエチオピアでも、同様の事態が懸念されている。
また、西アフリカの主要国であるナイジェリアでも反中絶派が活気づいており、安全でない中絶が増えて女性の死亡率が高まることが心配されている。
こうした中、問題は中絶そのものの枠を超えて、米国政府の援助資金が絡む「性教育のあり方」や「避妊具供給」、そして「女性の権利への支援」といった領域にまで広がりを見せることになるだろう。米国で「ロー対ウェイド判決」が覆されたことによる世界への影響は、現時点では軽微なものにとどまるが、この先の情勢は不透明だ。引き続き注視が必要だ。