ミャンマーで国軍が与党・国民民主同盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー氏らを拘束し、「軍が国家の全権を掌握した」と宣言してから3年以上が経過しました。この間、クーデターの動きを予測できなかった反省から、30年にわたり撮りためてきた約17万枚の写真と向き合い、「見えていなかったもの」や外国人取材者としての役割を自問し続けたフォトジャーナリストの宇田有三さんが、記録された人々の営みや街の姿からミャンマーの社会を思考する新たな挑戦を始めました。時空間を超えて歴史をひも解く連載の第23話です。
㉓<制限速度/数え方(数字)>
ビルマ(ミャンマー)各地をバイクで回った際、距離の表記にアラビア数字とビルマ数字が混在していることに気付き、前回の【㉒<里程標>】で報告した。このアラビア数字とビルマ数字の混在は、距離だけでなく、制限速度を示す標識でも見かけた。軍事独裁政権国ビルマ(ミャンマー)が長らく国を閉じていたために生じたためなのか、あるいは旧社会から新社会に移行する間、一時的に見られるものなのか分からない。ただ、事実として、速度制限標識の中には、思わず首をかしげたくなるようなものが今も少なからず路上で使われていることを記録しておきたい。

隣国タイや日本でもよく見かける速度制限標識。最高速度は時速60キロとアラビア数字で書かれている。(タニンダイー地域・ダウェ~ベイッ〈Myeik〉間、2019年)(c) 筆者撮影

隣国タイや日本でもよく見かける速度制限標識。最高速度は時速30キロとアラビア数字で書かれている。(マンダレー地域~ザガイン地域・シュエボー間、2018年)(c) 筆者撮影

最高速度は時速25キロとアラビア数字で書かれた速度制限標識。一見すると中途半端な制限速度のように思われるが、おそらく時速15マイル(MPH)を単純にキロに変換(15 mile ×1.6 ≒ 24km) したためだと思われる。(タニンダイー地域・ダウェ市内、2019年)(c) 筆者撮影

最高速度は時速25キロとアラビア数字で書かれた速度制限標識。一見すると中途半端な制限速度のように思われるが、おそらく時速15マイル(MPH)を単純にキロに変換(15 mile ×1.6 ≒ 24km) したためだと思われる。(タニンダイー地域・ダウェ市内、2019年)(c) 筆者撮影

最高速度は時速15マイル( ၁၅ MPH) とビルマ数字で書かれた速度制限標識。(ザガイン地域・モンユワ市内、2018年)(c) 筆者撮影

最高速度は時速48キロとアラビア数字で書かれた速度制限標識。一見すると中途半端な制限速度のように思われるが、おそらく時速30マイル(MPH)を単純にキロに変換(30 mile ×1.6 ≒ 48km) したためだと思われる。(ザガイン地域・モンユワ郊外、2018年)(c) 筆者撮影

最高速度は時速30マイル( ၃ဝ MPH) とビルマ数字で書かれた速度制限標識。(ザガイン地域・モンユワ市内、2018年)(c) 筆者撮影

最高速度は時速10マイルとアラビア数字で書かれた速度制限標識。(モン州・チャイカミー、2019年)(c) 筆者撮影

上側には最高速度は時速10マイル(10 m)とアラビア数字で書かれ、下側には最高速度は時速16キロとアラビア数字で書かれた、マイルとキロ併記の速度制限標識。(モン州・モーラミャイン郊外ジャイン橋、2019年)(c) 筆者撮影

最高速度は時速30マイル( ၃ဝ MPH) とビルマ数字で書かれた速度制限標識(下)と、最高速度は時速48キロとアラビア数字で書かれた速度制限標識。(マンダレー市内、2018年)(c) 筆者撮影

左ハンドルの旧式バスの運転席に設置された速度計。画像修正をかけたうえで速度計の部分を拡大してみると(黄枠内)、文字盤はアラビア数字であることが分かる。また、キロメートル方式の速度計では見かけない「30」という数字が書かれていることから、表示はマイル方式であることも推察される。(ヤンゴン地域タンリン、2007年)(c) 筆者撮影

左ハンドルの乗用車の運転席に設置された速度計。画像修正をかけたうえで速度計の部分を拡大してみると(黄枠内)、文字盤はアラビア数字であることが分かる。また、キロメートル方式の速度計では見かけない「30」という数字が書かれていることから、表示はマイル方式であることも推察される。(ヤンゴン地域市内、2008年)(c) 筆者撮影

マンダレー市内でレンタルしたオートバイ(日本のホンダ製)の速度計。文字盤はアラビア数字で、表示はキロメート方式だった。(マンダレー市内、2018年)(c) 筆者撮影

ミャンマー国境が近い隣国タイのメソット(Mae Sot)でレンタルした乗用車の運転席に設置されていた速度計。文字盤はアラビア数字で、表示はキロメートル方式だった。(タイ・メソット、 2020年)(c) 筆者撮影
「数とは何か」と問われた時、最も簡単で単純に説明しようとすれば「物の数を数えるもの」であろうか。例えば、日本で何かを数える時に、漢字五画の「正」の字を数字の「5」の代わりに使うことがある。同じように、ビルマ(ミャンマー)では、欧米式の 「タリーマーク」(Tally Marks)を見かけた。どちらも5つまで一塊で数えるところは同じだ。

(カチン州プータオ北部パナンディン、2007年)(c) 筆者撮影

船の上で女の子が指を折って数を数えているのを見かけた。日本と同じように、開いた手を親指から順番に「内側」に折りながら数えていた。(カレン州パアン~モン州モーラミャイン間、2006年)(c) 筆者撮影

雑貨店と食堂を営むチン人の女性が指を折りながら数える場面にも遭遇した。やはり日本と同じように、開いた手を親指から順番に「内側」に折りながら数えていた。(チン州テェディム、2018年)(c) 筆者撮影

食堂を営むオーナーのミャンマー(ビルマ)人も指を折って数えていたが、彼は握った手を親指から順番に「外側」に開きながら数える米国式だった。彼の説明によると、かつて米国に留学した時に身についた癖が残っているとのことだった。(マンダレー市内、2018年)(c) 筆者撮影

1944年に出版された資料には、「1」と「3」を数えるシャン人たちの写真が記録されている。(A・Bミルン(著) 牧野巽・佐藤利子(編)『シャン民俗誌』、生活社、1944年)
指を使った数の数え方は、日本とビルマ(ミャンマー)、そして欧米諸国でそれぞれ異なる。さらに、インドやロシアでも異なっている。各国の社会や時代の制約の中で、「数」をどのように位置付け、解釈していくのか。興味は尽きない。
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過去31年間で訪れた場所 / Google Mapより筆者作成
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時にはバイクにまたがり各地を走り回った(c) 筆者提供