英国のコンテナ事件に見るベトナム人の「見果てぬ夢」
「密入国のリスクおして活路求める価値観とは」
- 2019/11/30
約450万人の”越僑”たち
海外に暮らすベトナム人で、かの地で国籍を取得した人や長期在留している人は「越僑」(Viet Kieu ベッキュウ)と呼ばれる。古くは、フランスが宗主国だった時代に渡航した人々、そして、南北分断の時代からベトナム戦争前後にアメリカへ渡った人々、ボートピープルなどが多い。1990年代に入り、ベトナム政府が外貨獲得と経済発展のために門戸を開いて海外への渡航が緩和されてからは、留学や仕事で海外へ渡る人々が増え、現在、世界で暮らす越僑の数は450万人に上ると言われている。うち、米国で暮らす者がダントツに多く、250万人強。カリフォルニア州のサンノゼやオレンジカウンティーには、「リトルサイゴン」と呼ばれる一大ベトナムコミュニティーも存在するほどだ。最近では、技能実習や留学などで日本に在留するベトナム人の数も増えつつある。
こうした越僑たちが本国の家族に送金する資金は、ベトナム経済の大きな柱となっており、「ベトナム人の3本目の手」と例えられるほどだ。両手で稼いだ収入の他に、家族や親戚からの海外仕送りが家計の一端を担っている、という意味である。海外で収入を得て本国の家族を経済的に支援することは、これほどまでに一般的な風潮なのだと言えよう。そのために海外で切り詰めた生活をしていたとしても、「故郷の家族を喜ばせたい」という一念から、厳しい実情はあまり語られないのかもしれない。
ベトナム正月前後の空港は、出稼ぎに出ている家族や友人の一時帰国を迎える人たちで賑わい、越僑たちはスーツケースや段ボールを山積みしたカートを誇らし気げに押しながら”凱旋”するのが風物詩となっている。