英国のコンテナ事件に見るベトナム人の「見果てぬ夢」
「密入国のリスクおして活路求める価値観とは」
- 2019/11/30
「人と肩を並べていたい」 歪んだ価値観
家族が経済的に裕福だとか、有力者の子女であるとか、本人の能力がすこぶる高いというわけでもない限り、一般のベトナム人にとって海外に行くことは簡単ではない。出自や努力でどうにもならないなら、親戚友人から金をかき集めてでも、リスクを承知でブローカーに全てを委ねるほかないと考えるのかもしれない。いったん渡ってしまえば、密入国者のコミュニティー内で仕事が斡旋されるという話もあり、「人がやっているのなら自分も」と、追随してしまうケースもあるだろう。
日常生活の中で、ベトナム人が自分を他人と比べ、内面よりも「人からどう見られるか」に重きを置いたり、人がやっていることや人がいいと勧めるものに盲目的に追随したりする場面にしばしば出会う。平均月給が2万円ほどなのに、なぜスマホの最新機種を持てるのか。ネットワークビジネスが破竹の勢いで広がるのはなぜか――。今回の事件は、誰かの成功体験を見聞きし、自分にもそれが可能だと信じてしまった不幸な結果だと言わざるを得ない。問題は、密入国と不法就労だけでない。90年代に、農村部の若い女性たちを外国の男性に結婚斡旋する悪質なブローカーが問題になったことは記憶に新しい。今回の事件では、事実上の人身売買が、さまざまに形を変えながら未だに横行していることが明るみになった。
ベトナム人の働き手が増える今後の日本
今後、出稼ぎを目的とした悪質なブローカーへの監視の目は強まるだろう。今回の事件は、人手不足を海外の労働力に頼ろうとしている日本にとっても注視しなければならない事件であり、決して対岸の火事ではない。
筆者自身、技能実習生を目指すベトナムの若者たちに日本語会話を教えたことがある。彼らの境遇や、日本に行きたい動機は実にさまざまだった。真に実力や向上心があり、法や道徳に従う心構えの人々に門戸を閉ざすべきではないし、借金やリスクを負わずとも働くことができる道筋をつけるべきだと思う。発展目覚ましいと言われるベトナムだが、経済的な恩恵は大都市中心で、都市の中であっても職業や立場による収入格差は大きい。住み慣れた場所で、愛する家族や友人と暮らす生活より、さらに豊かな暮らしを夢見ることを止めることはできない。
2018年に日本企業への就職を目的として在留資格を変更した留学生のうち、ベトナムは中国に次いで多く約5,200人だったという。彼らにとって、日本が夢や希望を抱き、活躍できる土地であってほしいと願うばかりである。